銕仙会

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曲目解説

道成寺(どうじょうじ)

◆登場人物

前シテ 白拍子(しらびょうし)  じつは真砂庄司(まなごのしょうじ)の娘の霊
後シテ 毒蛇(真砂庄司の娘の怨霊)
ワキ 道成寺の住職
ワキツレ 道成寺の僧 【2人】
アイ 寺の召使い 【2人】

◆場所

 紀伊国 道成寺  〈現在の和歌山県日高郡日高川町〉

概要

紀伊国 道成寺の住職(ワキ)と僧たち(ワキツレ)が釣鐘の落慶法要をおこなっていると、一人の女(前シテ)が現れた。自らを男装の芸能者“白拍子”と名乗る彼女は、芸を見せることを条件に、入寺を許される。彼女は、怪しげな雰囲気を漂わせつつ舞を舞っていたが、隙を見て鐘楼に近づくと、鐘を突き落とし、その中に姿を消してしまった。
報せを受けた住職は、この寺に伝わる昔物語を語る。それは、自らに言い寄る女から逃げてきた山伏を、鐘の中に匿ったところ、女の執心は毒蛇と変じて鐘に取り憑き、山伏を焼き殺したというもの。今また鐘に災いをなしたのも、その女の執心であった。僧たちが祈っていると、鐘の中から、毒蛇となった女の執心(後シテ)が姿を現した。しかし、激しい攻防の末、毒蛇は遂に調伏され、日高川へと身を投げてしまうのだった。

ストーリーと舞台の流れ

1 ワキが、ワキツレ・アイを引き連れて登場します。

道成寺。この寺は、白鳳の昔に創建された、紀伊国の古刹である。ところが、とある事情から、この寺では久しく釣鐘が失われたままとなっていた。このたび、その鐘が数百年ぶりに新造されることとなり、今日はその落慶法要の日。寺の住職(ワキ)は弟子たち(ワキツレ)や召使いたち(アイ)を引き連れ、威儀を正して供養の場に臨む。

2 ワキはアイに女人禁制を厳命し、アイはその旨を告知します。

法要の開始を待つ住職。何を思ったか、彼は召使いの一人を呼び出すと、「今日の法要の場に女性を入れてはならない」と厳命する。思うところありげな住職の言葉。召使いは、住職から命じられた通り、今日の供養に女性は参加できない旨を触れてまわる。

3 前シテが登場します。

そこへ、この紀伊国に住むという、一人の女(前シテ)がやって来た。男装の芸能者“白拍子”と名乗る彼女は、道成寺の鐘供養へと向かうところ。「法会の場に結縁すれば、過去に犯した重罪をも、滅することができるとか。絶えて久しい鐘の音が、まさに今日、蘇るのだ。私の心も昔に返るよう。さあ、供養の場に参列しよう…」 どことなく怪しげな雰囲気を漂わせつつ、女は道成寺へと距離を縮めてゆく。

4 前シテはアイに入寺を許され、舞の支度をします。

供養の場に入り込もうとする女。召使いはそんな彼女を制止し、今日の法要は女人禁制だと告げて追い返そうとする。しかし白拍子と名乗る彼女は、法会の余興に舞を舞って華を添えたいのだと言い、重ねて参列を願い出る。法要に貢献するためとの彼女の言葉に、住職の真意を知らない彼は、遂に入寺を許可してしまった。召使いから舞に使う烏帽子を借りた女は、さっそく準備に取りかかる。

5 前シテは、〔乱拍子(らんびょうし)〕を舞います。

支度を終えた女。彼女は、鐘を見つめて何かを決心すると、供養の場に走り込んでゆく。
妖艶な足捌きを見せる、男装の麗人。彼女は、寺の創建縁起を謡いつつ、巧みな足づかいを重ねてゆく。鬼気迫るものすら感じさせる、緊迫した舞のひととき。不気味な静けさの漂うなか、彼女は、自らの胸中にたぎる何かを押し出すように、足技の芸を刻んでゆく。

6 前シテは、〔急之舞(きゅうのまい)〕を舞います。

足捌きの芸が最高潮にまで達した、そのとき。女は、法要の場を旋回するように舞い始めた。先ほどとは一転して、激烈なその舞い姿。女の身体からほとばしる、この法要の場への執心は、あたかも辺りを焼き尽くす業火のよう。

7 前シテは、落下する鐘の中に飛び込み、姿を消します。(鐘入リ)

異様な雰囲気を漂わせつつ、芸を重ねてゆく女。
やがて夜も更け、人々も寝静まった。隙を見て鐘楼に近づき、鐘を撞こうとする女。しかしそのとき、何を思ったか、彼女は鐘を恨めしげに見つめると、鐘を掴んで引きずり落とす。その中に吸い込まれるように、女は姿を消すのだった。

8 アイは鐘が落ちたことをワキに報告し、ワキは心当たりがあると言います。

凄まじい地響きに、肝を潰した召使いたち。恐る恐る、音のした方を見に行ってみると、そこには地に落ちた釣鐘。慌てた一人が鐘に触れると、それは灼熱の如く煮えたぎっていた。さては先刻の女の仕業か。入寺を許した召使いは青ざめつつ、住職へ報告に向かう。
報告を受けた住職には、思い当たることがあった。彼は、女人禁制と厳命した真意を教えようと言い、寺に伝わる昔物語を弟子たちに語り始める。

9 ワキはワキツレに、昔この寺で起こった事件を物語ります。

——昔、この国の住人・真砂荘司の館に、たびたび泊まる山伏がいた。荘司は自らの娘に向かい、「彼が将来の夫だ」と冗談を言っていたが、幼い娘はその言葉を信じたまま、成長していった。歳月は流れ、再び泊まりに来た山伏。その寝所へと忍び込んだ娘は、結婚を迫る。仰天した山伏は、娘を騙して逃げ出し、この道成寺へと逃げ込むと、僧たちの力を借り、鐘を下ろしてその中に隠れた。そこへ、執心のあまり毒蛇となった娘がやって来る。毒蛇は鐘を目ざとく見つけると、鐘もろとも、彼を焼き殺したのだった…。

10 ワキ・ワキツレが祈っていると、鐘が上がり、中から後シテが出現します。

この寺の鐘をめぐる、世にも恐ろしい物語。さては今度の事件も、その娘の執心の仕業であったのか。僧たちは、この鐘に憑いた悪鬼を調伏すべく、祈祷をはじめる。
鐘に向かって責めかける、密教修法の数々。鐘は不気味に動き出し、僧たちは負けじと肝胆を砕いて祈り続ける。そのとき、けたたましい音が鳴り響くと、鐘は自ずと上がってゆく。そして——、中から、毒蛇(後シテ)が姿を現した。

11 後シテとワキ・ワキツレとが争い(〔祈リ〕)、後シテは退散します。(終)

毒蛇と僧たちとが繰り広げる、一進一退の攻防戦。やがて、僧たちが大地を司る龍王に祈りを捧げると、さすがの毒蛇もたまらず倒れ伏す。恨めしげに鐘を見やる毒蛇。その吐息は猛火と変じ、わが身を焼き苦しめてゆく。追い詰められ、退散してゆく毒蛇。毒蛇は寺の境内を逃げ出すと、日高川へと身を投げてしまった。
かくして道成寺には、再び平和な日々が戻ったのだった——。

(文:中野顕正  最終更新:2023年09月18日)

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