銕仙会

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曲目解説

井筒 (いづつ)
 

作者  世阿弥
素材  『伊勢物語』第23段ほか
季節  秋
種類  三番目物・鬘物

 
登場人物・面・装束

前シテ  里の女  若女[わかおんなめん]面など、唐織着流女出立[からおりきながしおんないでたち]
後シテ  井筒の女の霊  若女面など、初冠長絹女出立[ういかんむりちょうけんおんないでたち]
ワキ  旅の僧  着流僧出立[きながしそういでたち]
アイ  里の男  長上下出立[ながかみしもいでたち]

 
あらすじ
 旅の僧が訪れた在原寺で出会った、在原業平の墓に水を手向ける女性は、業平にゆかりのある井筒の女の霊でした。再び現れた井筒の女は業平の形見の衣を身にまとい、舞を舞います。
 
舞台の流れ

  1. 囃子方が幕から、地謡が切戸口から出てきて、所定の位置につきます。後見がすすきの付いた井筒(いづつ)の作リ物を運んできます。作リ物が正面先に置かれます。
  2. 名ノリ笛にのり、幕からワキの僧が一人で登場し、常座[じょうざ]に立ちます。南都[なんと:奈良]にお参りした後、初瀬[はつせ:長谷寺]に向かいます。そこで、在原業平と妻の紀有常の女[むすめ]にゆかりのある、在原寺を訪れます。謡い終わると、ワキはワキ座に座ります。
  3. 次第の囃子で、前シテの里の女が登場します。手には数珠と木の葉(又は桶)を持っています。秋の夜のさみしい情景や仏法の救いを求める謡が謡われます。
  4. 僧は墓に手向けをする女性の姿を見つけ、声をかけます。女は業平にゆかりのある人物のようで、昔を懐かしむ様子を見せます。この間に、アイが出てきてアイ座に座ります。
  5. 僧は業平のことを語るよう促します。シテは着座し、語り始めます。業平と妻の紀有常の女の恋物語が語られます。
  6. 女は僧に名のるように勧められ、自分が紀有常の女であると明かし、井筒の蔭に消えてしまいます。謡の途中でシテは立ち上がり、中入します。
  7. アイの里の男が業平と紀有常の女について語り、僧に弔いを勧めます。
  8. 僧は更けていく夜、夢を見られることを期待して、床に着きます。
  9. 一声の囃子で、業平の形見の上着を身に着けた後シテの紀有常の女が登場します。このあたりでアイが退場します。
  10. 後シテは序の舞を舞います。「昔男に移り舞」とあるように、業平の衣を着た女に、業平が乗り移ったかのような舞になります。
  11. 舞い終わり、シテは井筒の作リ物に近づきます。業平の衣をまとった自分の姿を井筒の水鏡に映し、業平に思いを馳せます。そして夜明けとともに消えていきます。
  12. トメ拍子の後にシテが退場し、ワキもその後に続いて幕へ退場します。後見が作リ物を運んで行ったあと、囃子方が幕へ、地謡は切戸口へ退場します。

 
ここに注目
 世阿弥自身が『申楽談儀』[さるがくだんぎ]で、と評価している自信作です。現在では三番目物の代表作と言っていい作品ですが、室町後期の伝書を見ると、後シテについて、増髪[ますかみ]という女面を着けるよう指示してあるものがあり、狂気に類する表現をしていたことがうかがい知れます。
 『伊勢物語』の「筒井筒」に出てくる幼馴染の二人を、業平と紀有常の女とする考え方は、中世における『伊勢物語』の解釈が反映されているものです。実際には、業平と有常の年齢差が10歳ほどしかなく、その娘と業平が幼馴染というのは史実に合わないようです。
 各時代を通してコンスタントに演じられてきた〈井筒〉ですが、江戸時代には数多い三番目物の一つという程度の扱いで、それほど人気があったわけではないようです。現代において〈井筒〉をここまでの人気曲に押し上げたのは、観世寿夫の功績が大きいと言えるでしょう。TVで放送された映像は名演で知られており、それを収めたDVDも販売されています。
 
 
(文・江口文恵)

近年の上演記録(写真)

(最終更新:2017年5月)

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