銕仙会

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曲目解説

春日龍神 (かすがりゅうじん)
 
作者 金春禅竹か
典拠 『古今著聞集[ここんちょもんじゅう]』巻二などの明恵上人説話
季節 春
種類 五番目物 太鼓物
 
登場人物

前シテ 宮守の老人 尉面・禰宜出立
後シテ 龍神 黒鬚面・龍神出立
ワキ 明恵上人 大口僧出立
ワキツレ 従僧 着流僧出立
アイ 社人 長上下出立

 
あらすじ
 唐から天竺へ向かおうと決めた明恵上人[みょうえしょうにん]は、暇乞いのために訪れた春日神社で、宮守の老人に渡航を止められます。思いとどまった明恵の前に龍神が現れます。
 
舞台の流れ

  1. 幕から橋掛リを通って、囃子方が笛・小鼓・大鼓・太鼓の順に登場します。切戸口から地謡が登場します。それぞれ所定の位置に着きます。
  2. 次第[しだい]の囃子でワキとワキツレが登場し、舞台に入ります。ワキの明恵[みょうえ]上人は、唐[とう:中国]に渡って、天竺[てんじく:インド]に向かうつもりです。旅の前に暇を乞うために、栂の尾[とがのお:京都市の高山寺]から南都[なんと:奈良]の春日神社へと向かっています。春日の里についたところでワキとワキツレは脇座に着きます。
  3. 一声[いっせい]の囃子で前シテの宮守の老人が登場します。老人は手にほうきを持っています。舞台に入り、春日神社の周りの神徳あらたかな様子を讃えます。
  4. ワキは立ち上がり、シテに声をかけます。老人は明恵上人が唐に行くことを思いとどまらせようとします。
  5. 老人は着座して、春日神社について語ります。明恵が訪れたい仏法にまつわる異国の旧跡は、すべて日本でも拝むことができるのだと、この国のすばらしさを明恵に説いて聞かせます。
  6. 老人の話を聞いた明恵上人は、唐へ行くことをやめることにします。老人に名を尋ねると、老人は自分が春日明神に仕えた時風秀行[ときふうひでゆき]であると告げ、消えてしまいます。前シテは幕へと中入りします。
  7. アイの社人が登場し、春日明神について語ります。
  8. ワキとワキツレは待謡[まちうたい]を謡います。上人は春日山が金色に輝く奇瑞[きずい]を見ます。
  9. 早笛の囃子で後シテの龍神が登場します。一ノ松のあたりで一度止まり、それから舞台に入ります。一人で登場しますが、大勢の眷属[けんぞく:つき従うもの]を連れている設定で、役者もそのつもりで演じています。
  10. 後シテは打ち杖を持ち、舞働[まいばたらき]を舞います。龍神は明恵上人が唐へ行くことをやめたことを確かめ、猿沢の池へと消えていきます。飛び返りなどの龍神らしい動きを見せたあと、最後にシテが留拍子を踏み、能が終わったことを示します。
  11. 後シテが幕へと退場し、続いてワキ・ワキツレが退場します。そのあと囃子方が幕へ入り、地謡が切戸口へ退場します。

 
ここに注目
 龍神が出てくる作品は、田楽などの演目には古くからあったようですが、世阿弥作品には見られない役柄です。大和猿楽で龍神物がつくられ始めたのは、金春禅竹が関与したと考えられている、この〈春日龍神〉が成立した頃のようです。以降は、禅竹の孫の金春禅鳳や、観世信光・長俊親子などにより、多くの龍神物が作られています。
 なお、この曲の間狂言は、観世流では社人の語リが原則となっていますが、もともとは下掛で行われている末社アイが原型だったようです。
 
 
(文・江口文恵)

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