葛城(かずらき)
作者 | 不明 |
素材 | 役(えん)の行者が葛城神に天の岩橋を架けさせた説話(『俊頼髄脳』など) |
場所 | 大和の葛城山 |
季節 | 冬 |
分類 | 四番目物 |
登場人物
前シテ | 葛城の里の女 | 深井または増・壷折腰巻女出立 |
後シテ | 葛城の女神 | 増または十寸髪・天女出立 |
ワキ | 山伏 | 山伏出立 |
アイ | 葛城の里に住む男 | 長上下出立 |
あらすじ
羽黒山の山伏が大和の葛城山で雪に降りこめられ途方にくれている。すると女が現れ、自分の庵で一夜を明かすように声を掛け、庵に案内する。女はしもと(木の細枝)で暖をとり山伏をもてなし、しもとにちなむ和歌や葛城山を詠んだ和歌について語り合う。勤行を始めた山伏に女は、自分は役行者の命令に背き、石橋を架けなかったので蔦葛(つたかずら)で身を縛られ苦しんでいると告げて消え失せる。山伏は里の男から岩橋の神話を聞き、夜に祈祷をおこなう。すると葛城の女神が現れ蔦葛の戒めを示し、見苦しい姿を恥じる。神は高間原の天の岩戸で舞われた大和舞を舞い、夜の明けぬうちに岩戸の中へ消える。
舞台展開
- 山伏が葛城山に赴き、雪に降りこめられる。
- 女が現れ、山伏を庵に導く。
- 女はしもとを焚き、山伏をもてなす、
- 女は実は葛城の神であると明かし、消え失せる。
- 里の男が山伏に岩橋の神話を語る。
- 山伏は葛城の神のために読経をおこなう。
- 葛城の女神が現れ、さらなる勤行を勧める。
- 神は蔦葛の戒めの姿を現し、見苦しい姿を恥じる。
- 神の大和舞
- 神は夜の明けぬうちに岩戸の内へ入り消え去る。
ここに注目
葛城の神が「大和舞」を舞うのは、作品の作られた中世には高間の原や天の岩戸が葛城山にあると考えられていたことに基づく。小書(特別な演出)「大和舞」は、天の岩戸の前で舞われた神楽舞に注目して、常の演出である「序ノ舞」を「神楽」に替える(神楽以外の特殊な舞になることもある)。ほかにも、蔦に雪の降り積もった山の作リ物(舞台装置)が出される。
(文・中司由起子)