銕仙会

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曲目解説

淡路(あわじ)

◆登場人物

前シテ 老人  じつは伊弉諾尊(いざなぎのみこと)の化身
後シテ 伊弉諾尊
ツレ 男  じつは神の眷属
ワキ 今上天皇の臣下
ワキツレ 臣下の従者 【2‐3人】
アイ 土地の男

◆場所

淡路国 二宮(にのみや)  〈現在の兵庫県南あわじ市 大和大国魂神社〉

概要

帝の臣下(ワキ・ワキツレ)が日本列島発祥の聖蹟・淡路島を訪れると、そこへ、二宮神社の神田を耕す老人(前シテ)と男(ツレ)が現れる。老人は臣下に、二宮の祭神である伊弉諾・伊弉冉二神がもたらす豊饒の恵みを説き讃え、淡路島にはじまる国土万物を生み出した二神の神話を語って聞かせる。やがて老人は、自分こそその伊弉諾神の化身だと明かすと、夕陽の光の中に現れた天浮橋を渡りつつ、天空へと姿を消すのだった。

その夜、臣下たちの眼前に出現した伊弉諾神(後シテ)。伊弉諾神は、神々の流れを受け継いで今なお続く君の御代を讃えると、颯爽と祝福の舞を舞い、神代の昔に変わらぬ淡路の聖域を讃えて日本の繁栄を言祝ぐのだった。

ストーリーと舞台の流れ

1 ワキ・ワキツレが登場します。

淡路島。瀬戸内海に浮かぶこの島は、天地開闢の昔、伊弉諾(いざなぎ)・伊弉冉(いざなみ)の二神が国々を生むその初めとして生み出したという、日本列島発祥の地。それは、上古の息吹を今に伝える、神秘の霊蹟であった――。

その淡路へと向かう、帝の臣下たち(ワキ・ワキツレ)。旅の途上、この名高き古蹟をも一見しようと思い立った彼らは、海を渡り、こうして島へとやって来たのであった。

2 前シテ・ツレが登場します。

岸には穏やかな波が寄せ、澄んだ水が田を潤おす。ゆったりとした時が流れる、島の内。

そこへ、田作りの老人(前シテ)と男(ツレ)がやって来た。「昔より今に至るまで、人間は田を耕しつつ、自然の恵みの中で生きてきた。長閑な春の今日、満開の花の下で田に向かえば、心は花へと惹かれゆく。雪かと見まがうばかりの、はらはらと舞い散る桜。さあ、そんな春の盛りに積もる“雪”の田を、耕しに行こうではないか…」。

3 ワキは前シテと言葉を交わし、神田の由来を教えられます。

田を耕しつつ、水門ごとに恭しく幣帛を立てて廻る老人。不審がる臣下に、老人は言う。「神聖な営みである、春の田作り。水口の幣は、古歌にも詠まれた農村の春の風物詩なのです。しかもこの田は“二宮”の神田、自然の恵みを神に捧げる清浄な田…」。

二宮。それは、伊弉諾・伊弉冉の二神が、今なおこの世に住み給う宮殿。世界に生命の種を蒔き、その豊饒を司る二神の徳こそ、繁栄をもたらす神の恵みなのであった。

4 前シテは、伊弉諾・伊弉冉の神徳を讃えます(〔クセ〕)。

――元始、宇宙は混沌としていた。やがて天地は分かれてゆき、陽と陰とが伊弉諾・伊弉冉となって現れた。万物を生み出し、世界に秩序を与えた二柱の神。そんな二神が最初に生み出したものこそ、この淡路島。国土万物は皆この島から世に現れ、最後には、日神にはじまる貴い神々までもが誕生する。一度は天へと昇っていった日神。しかしやがて、その子孫は地上界へと降臨し、以来この国を永く治めている。そんな素晴らしい時代を現出させた二神の徳は、今なお、この聖域に息づいているのであった…。

5 前シテは自らの正体を仄めかし、ツレとともに姿を消します。(中入)

神代のいにしえに違わぬ、淡路の神域。老人は明かす。「君が代の恵みを支える、太古より伝わる神々の遺風。――さあ、山の端の雲のかなたに天浮橋の昔を現わし、神徳のほどをお見せしましょう。私こそ、世界に生命の種を蒔いた神…」。

折しも射してきた夕陽の光が、一条の架橋となって大地と天空とを結ぶ時刻。老人はそう告げると、天へと続く光の橋を渡りつつ、姿を消してしまうのだった。

6 アイが登場し、ワキに物語りをします。

驚いた臣下。彼は土地の男(アイ)を呼び出すと、神代の物語を尋ねる。島に伝わる伝承を語る男。それを聞いた臣下は、今に続く神の恵みを思い、更なる奇蹟を願うのだった。

7 ワキが待っていると、後シテが出現します。

やがて迎えた、淡路島の夜。それは、月の光が清く輝き、空は紺碧の色を湛える、長閑な春の宵であった。虚空には神楽の響きが澄みわたる、奇蹟の夜。

そこへ出現した、一尊の男神(後シテ)。「私こそ、いにしえ天浮橋から下界を探り求め、日本列島を創り上げた伊弉諾神。われら神々の流れを受け継いで、今なお君の御代は治まり続けている。神々の守護する日本、それは、永遠に揺るがぬ国なのだ…」。

8 後シテは〔神舞〕を舞い、国土を祝福します。(終)

颯爽と祝福の舞を舞い、御代の長久を言祝ぐ神。「天浮橋から振り下ろした矛の先。そこから滴り落ちた露は、凝り固まってこの島を生み出した。まさしくこの淡路こそ、浮橋の出現したその地なのだ――」 漫々たる海、湧き起こる雲に抱かれたこの島で、伊弉諾神は浮橋の上に立ち、治まる御代の風を含んで舞い遊ぶ。神の恵みに国は富み、繁栄を謳う人々の春。日本は、行く末久しく治まり続けるのであった。

(文:中野顕正  最終更新:2019年3月22日)

舞台写真

今後の上演予定

2019年03月27日 青山能「淡路」シテ:観世淳夫

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