銕仙会

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曲目解説

道成寺どうじょうじ
天井には巨大な鐘が吊り上げられ、不気味な静けさをたたえる〔乱拍子〕の異様な雰囲気に、張り詰めた時間が過ぎてゆく…。若手能楽師の登竜門とされる大曲。
作者 未詳
  廃曲《鐘巻(かねまき)》の改作
場所 紀伊国 道成寺 (現在の和歌山県日高郡日高川町)
季節 晩春
分類 四・五番目物 鬼女物
登場人物
前シテ 白拍子  じつは毒蛇の化身 面:近江女など 壺折腰巻女出立(女性の外出姿の扮装)
後シテ 毒蛇 面:般若 般若出立(鬼女の扮装)
ワキ 道成寺の住職 大口僧出立(格式ある僧侶の扮装)
ワキツレ 道成寺の僧(2人) 大口僧出立
アイ 寺の召使い(2人) 能力(のうりき)出立(下働きの僧の扮装)

概要

紀伊国 道成寺の住職(ワキ)と僧たち(ワキツレ)が釣り鐘の落慶法要をおこなっていると、一人の女(前シテ)が現れる。女人禁制を告げる召使い(アイ)に対し、彼女は自らを男装の芸能者“白拍子(しらびょうし)”と名乗り、芸を見せることを条件に入寺を許される。白拍子は怪しげな雰囲気を漂わせつつも芸を見せていたが、隙を見て鐘に近づくと、鐘を突き落とし、その中に姿を消してしまうのだった。

報せを受けた住職は、この寺に伝わる昔物語を語る。それは、女から逃げてきた男を鐘の中に匿ったところ、女の執心は毒蛇と変じて鐘に取り憑き、男を祟り殺したというもの。今また鐘に災いをなしているのも、その女の執心であった。僧たちが祈っていると、鐘の中から毒蛇となった女の執心(後シテ)が姿を現すが、激しい攻防の末に毒蛇は調伏され、遂に日高川へ身を投げてしまうのだった。

ストーリーと舞台の流れ

1 ワキがワキツレ・アイを引き連れて登場します。

道成寺。この寺は、白鳳の昔に創建された、紀伊国の古刹である。ところがある事情から、久しく釣り鐘が失われたままとなっていた。このたび、その鐘が数百年ぶりに新造されることとなり、今日はその落慶法要の日。寺の住職(ワキ)は弟子の僧たち(ワキツレ)や召使いたち(アイ)を引き連れ、威儀を正して供養の場に臨むところである。

2 ワキはアイに女人禁制を厳命し、アイはその旨を告知してまわります。

法要の開始を待つ住職。何を思ったか、彼は召使いの一人を呼び出すと、「今日の法要の場に女性を入れてはならない」と厳命する。思うところありげな住職の言葉に、ただ承知する召使い。彼は住職から命じられた通り、今日の供養に女性は参加できない旨を触れてまわる。

3 前シテが登場します。

そこへ、この紀伊国に住むという、一人の女(前シテ)が現れた。男装の芸能者“白拍子(しらびょうし)”と名乗る彼女は、道成寺の鐘供養へと向かうところ。「法会の場に結縁すれば、過去に犯した重い罪をも滅することができるとか。絶えて久しき鐘の音が、まさに今日、よみがえるのだ。私の心も昔に返るよう。さあ、供養の場に参列しよう…」 どことなく怪しげな雰囲気を漂わせつつ、女は道成寺へと距離を縮めてゆく。

4 前シテはアイに入寺を許され、烏帽子を受け取って身につけます。

供養の場に入り込もうとする女。召使いはそんな彼女を制止し、今日の法要は女人禁制だと告げて追い返そうとする。しかし白拍子を名乗る彼女は、法会の余興に舞を舞って華を添えたいのだと言い、重ねて参列を願い出る。法要に貢献するためとの彼女の言葉に、住職の真意を知らない彼は遂に入寺を許可してしまう。召使いから舞に使う烏帽子を借りた女は、さっそく準備に取りかかる。

5 前シテは〔乱拍子(らんびょうし)〕を舞います。

支度を調えた女。彼女は鐘を見つめて何かを決心すると、供養の場に走り込んでゆく。

妖艶な足さばきを見せる、男装の麗人。彼女は寺の創建縁起を謡いつつ、巧みな足づかいを重ねてゆく。鬼気迫るものすら感じさせる、緊迫した時間。不気味な静けさの漂うなか、彼女は自らの胸中にたぎる何かを押し出すように、足技の芸を刻んでゆく。

6 前シテは〔急之舞(きゅうのまい)〕を舞います。

足さばきの芸が最高潮にまで達した、そのとき。女は、芸能の場を旋回するように舞い始めた。先ほどとは一転して、激烈なその舞い姿。女の身体からほとばしるエネルギーは、あたかも、辺りを焼き尽くす業火の炎のよう。

7 前シテは落下してくる鐘の中に飛び込み、姿を消します。(鐘入リ)

異様な雰囲気を漂わせつつも、芸を重ねてゆく女。

やがて夜も更け、人々も寝静まった。隙を見て鐘に近づき、撞(つ)こうとする女。しかしそのとき何を思ったか、彼女は鐘を恨めしげに見つめると、鐘を掴んで引き落とす。その中に吸い込まれるように、女は姿を消すのだった。

8 アイは鐘が落ちたことをワキに報告し、ワキは心当たりがあると言い出します。

すさまじい地響きに、肝を潰した召使いたち。恐る恐る、音のした方を見に行ってみると、そこには地に落ちた鐘。慌てた一人が鐘に触れると、それは灼熱の如く煮えたぎっていた。さては先刻の女の仕業か。入寺を許した召使いは青ざめつつも、住職へ報告に向かう。

報告を受けた住職には、思い当たることがあった。彼は、女人禁制と厳命した真意を教えようと言い、寺に伝わる昔物語を僧たちに語りはじめる。

9 ワキは、昔この寺で起こった事件をワキツレに物語ります。

――昔、この国の住人・真砂荘司の館にたびたび泊まる山伏がいた。荘司は自らの娘に向かい、「彼が将来の夫だ」と冗談を言っていたが、幼い娘はその言葉を信じたまま、成長していった。歳月は流れ、再び泊まりに来た山伏。その寝所へ忍び込んだ娘は、結婚を迫る。仰天した山伏は娘を騙して逃げ出し、この道成寺へと逃げ込むと、僧たちの力を借り、鐘を下ろしてその中に隠れる。そこへ、執心のあまり毒蛇となった娘がやって来た。毒蛇は鐘を目ざとく見つけると、鐘もろとも、彼を焼き殺したのであった…。

10 ワキ・ワキツレが祈っていると鐘が上がり、中から後シテが出現します。

この寺の鐘をめぐる、世にも恐ろしい物語。さては今度の事件も、その娘の執心の仕業であったのか。僧たちは、この鐘に憑いた悪鬼を調伏すべく、祈祷をはじめる。

鐘に向かって責めかける、密教修法の数々。鐘は不気味に動き出し、僧たちは負けじと肝胆を砕いて祈り続ける。そのとき、けたたましい音が鳴り響くと、鐘は自ずと上がってゆく。そして…、中から、毒蛇(後シテ)が姿を現した。

11 後シテとワキ・ワキツレとが争い(〔祈リ〕)、後シテは退散してゆきます。(終)

毒蛇と僧たちとが繰り広げる、一進一退の攻防戦。やがて僧たちが大地を司る龍王に祈りを捧げると、さすがの毒蛇もたまらず倒れ伏す。恨めしげに鐘を見やる毒蛇の吐息は猛火と変じ、その火はわが身を焼き苦しめてゆく。追い詰められ、退散してゆく毒蛇。毒蛇は寺の境内を逃げ出すと、遂に日高川へと身を投げてしまった。

かくして、道成寺には再び平和な日々が戻ったのであった。

(文:中野顕正)

近年の上演記録(写真)

・2016年10月別会「道成寺」シテ:観世淳夫
(最終更新:2018年10月)

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