銕仙会

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曲目解説

羽衣(はごろも)

◆登場人物

シテ 天女
ワキ 漁師 白龍(はくりょう)
ワキツレ 同行の漁師 【2人】

◆場所

 駿河国 三保浦  〈現在の静岡県静岡市清水区 三保松原〉

概要

春のある日、漁師・白龍(ワキ)は三保浦で一枚の美しい衣を拾う。そこへ現れた、持ち主の天女(シテ)。彼女は衣を返してくれと言うが、天人の羽衣と知った白龍はこれを惜しみ、返すことを渋る。衣無くては天界へ帰ることの叶わぬ身を嘆き、月の都を懐かしんで涙する天女。その姿に同情した白龍は、名高き“天人の舞楽”を舞うことを条件に、ついに彼女へ衣を返すのだった。

羽衣を身にまとい、天人の舞を舞いはじめた彼女。彼女は富士山を背に、緑美しい春の三保浦で舞い戯れつつ、天の舞楽を人間界へと伝える。やがて、彼女は数々の宝を地上に降らせると、そのまま天に帰っていったのだった。

ストーリーと舞台の流れ

1 ワキ・ワキツレが登場し、ワキは衣を拾います。

富士山を遥かに望む、駿河国 三保浦。沖では漁師たちが釣りにいそしみ、浦には心地よい朝風が吹きぬけてゆく。それは春霞の立ちこめる、ある朝のこと。

漁師の一人・白龍(ワキ)が漁を終えて陸に上がると、辺りはまるで天界の如き、妙なる雰囲気に包まれていた。傍らの松の枝には一枚の衣。この世のものとも思われぬ色香をたたえたこの衣に、喜んだ白龍はさっそくわが家へ持ち帰ろうとする。

2 シテが声を掛けつつ登場し、ワキと言葉を交わします。

そのとき、一人の女性(シテ)が彼を呼びとめた。衣の持ち主だと名乗り、自分は天女だと明かす女。これこそ天人の羽衣。そう知ってますます衣を欲しがる白龍に、彼女は衣無くては天上に帰れぬ身を嘆き、故郷を恋い慕って涙する。伝説の瑞鳥たちと翼を並べていた天界の日々に引きかえ、今や濁世の下界で朽ち果てるのを待つばかり。雲のかなたをゆく鳥たち、空に吹く春風さえも羨みつつ、天女は悲しみにうち萎れるのだった。

3 ワキはシテに羽衣を返し、シテはそれを身につけます。

彼女の気の毒な姿に、伝説の“天人の舞楽”を見せるならば衣を返そうと言う白龍。しかし舞を見ぬうちに衣を返したならば、そのまま帰ってしまうのではないか。なおも疑う白龍に、天女はきっぱりと言う。「他人を疑うのは人間の行い。天界には偽りなど、ありはしないのです」 その言葉に自らの心を恥じた白龍は、ついに衣を返してやる。

衣をまとった天女。その袖は風にはためき、その艶やかさは露を帯びた花のよう。天界の舞楽を奏ではじめる彼女。これこそ、後世に伝わる“東遊(あずまあそび)”の起源――。

4 シテは三保浦の情景を讃えて謡い舞います(〔クセ〕)。

――霞たなびく春、月宮では桂の花が咲いている頃。三保崎の曙の春、清見潟の月の秋、富士山の雪の冬と、四季折々の姿を見せるこの駿河の地でも、ひときわ長閑な、この浦の春の景色。そんな春の気を帯びた天女の舞い姿に、妙なる音楽までもが澄みわたる。紅に輝く夕陽が富士の高嶺を染め上げ、海面は碧色に照り映える時刻。天女の舞の袖は、風を含んでたおやかに翻るのだった。

5 シテは〔序之舞〕・〔破之舞〕を舞い、国土を祝福して去ってゆきます。(終)

晴れわたる大空や、山々がまとう霞。春の“衣”は様々な姿を見せ、舞に彩りを添える。

やがて舞い納めた天女。円満真如の月を体現する彼女は、人間界の幸福を叶えようと数々の宝を降らせ、国土と人々とを祝福する。心地よい浦風に羽衣をはためかせながら、天空へと昇ってゆく天女。富士山のかなたへと舞い昇っていった彼女は、ついに春霞に紛れ、そのまま消えていったのだった。

(文:中野顕正  最終更新:2019年9月27日)

舞台写真

2013年06月14日 定期公演「羽衣 彩色之伝」シテ:鵜澤久

2014年02月26日 青山能「羽衣」シテ:観世淳夫

2016年01月11日 定期公演「羽衣 和合之舞」シテ:浅見慈一

2019年12月13日 定期公演「羽衣」シテ:鵜澤光

今後の上演予定

2020年01月13日 定期公演「羽衣 彩色之伝」シテ:野村四郎

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