銕仙会

銕仙会

曲目解説

羽衣はごろも

作者

未詳

場所

駿河国 三保浦  (現在の静岡県静岡市清水区 三保松原)

季節

晩春

分類

三番目物 精天仙物

登場人物

シテ

月宮の天女

面:増など 腰巻モギドウ出立(下着姿の天女の扮装)

「3」の場面で、天女出立(天女の扮装)

ワキ

漁師 白龍

水衣男出立(漁師の扮装)

ワキツレ

同行の漁師(2‐3人)

水衣男出立

概要

春のある日、漁師・白龍(ワキ)は三保浦で天人の羽衣を見つける。そこへ現れた持ち主の天女(シテ)は返してくれと言うが、白龍は衣を惜しみ、返すことを渋る。しかし天界へ帰ることの叶わぬ身を嘆く天女の姿に、白龍は“天人の舞楽”を舞うことを条件に衣を返し、天女は衣を身にまとって舞いはじめる。富士山を背に、緑美しい春の三保浦で舞を舞っていた天女であったが、やがて彼女は数々の宝を人間界にもたらすと、天界へ帰っていったのだった。

ストーリーと舞台の流れ

1 ワキ・ワキツレが登場し、ワキは衣を拾います。

富士山を遥かに望む、駿河国 三保浦。沖では漁師たち(ワキ・ワキツレ)が釣りにいそしみ、浦には心地よい朝風が吹きぬけてゆく。それは春霞の立ちこめる、ある朝のこと。

漁師の一人・白龍(ワキ)が漁を終えて陸に上がると、辺りはまるで天界の如き、妙なる雰囲気に包まれていた。傍らの松の木には一枚の衣。この世のものとも思われぬ色香をたたえたこの衣に、喜んだ白龍はさっそくわが家へ持ち帰ろうとする。

2 シテが声を掛けつつ登場し、ワキと言葉を交わします。

そのとき、一人の女性(シテ)が彼を呼びとめた。女は衣の持ち主だと名乗り、自分は天女だと明かす。これこそ天人の羽衣。そう知った白龍はますます衣を欲しがり、返すまいとする。衣無くては天上に帰れぬ身を嘆き、故郷を恋い慕う天女。伝説の瑞鳥たちと翼を並べていた天界の日々に引き換え、今や濁世の下界で朽ち果てるのを待つばかり。雲のかなたをゆく鳥たち、空に吹く春風さえも羨みつつ、天女は涙にうち萎れるのだった。

3 ワキはシテに羽衣を返し、シテはそれを身につけます。

彼女の気の毒な姿に、伝説の“天人の舞楽”を見せるならば衣を返そうと言う白龍。しかし舞を見ぬうちに衣を返したならば、そのまま帰ってしまうのではないか。なおも疑う白龍に、天女はきっぱりと言う。「他人を疑うのは人間の行い。天界には偽りなど、ありはしないのです」 その言葉に自らの心を恥じた白龍は、遂に衣を返してやる。

衣をまとった天女。その袖は風にはためき、その艶やかさは露を帯びた花のよう。彼女は、天界の舞楽を奏ではじめる。これこそ、後世に伝わる“東遊(あずまあそび)”の起源――。

4 シテは三保浦の景色を讃えて謡い舞います(〔クセ〕)。

――霞たなびく春、月宮では桂の花が咲いている頃。三保崎の曙の春、清見潟の月の秋、富士山の雪の冬と、四季折々の姿を見せるこの駿河の地でも、ひときわ長閑な、この浦の春の景色。そんな春の気を帯びた天女の舞い姿に、妙なる音楽までもが澄みわたる。紅に輝く夕陽が富士の高嶺を染め上げ、海面は碧色に照り映える時刻。天女の舞の袖は、風を含んでたおやかに翻るのだった。

5 シテは〔序之舞〕、次いで〔破之舞〕を舞い、国土を祝福して去ってゆきます。(終)

晴れわたる大空や、山々がまとう霞。春の“衣”は様々な姿を見せ、舞に彩りを添える。

やがて舞い納めた天女。円満真如の月を体現する彼女は、人間界の幸福を叶えようと数々の宝を降らせ、国土と人々とを祝福すると、心地よい浦風に羽衣をはためかせながら、天空へと昇ってゆく。富士山のかなたへと舞い昇っていった彼女は、ついに春霞に紛れ、そのまま消えていったのだった。

(文:中野顕正)

近年の上演記録(写真)

(最終更新:2018年10月)
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