銕仙会

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曲目解説

花筐はながたみ

作者

世阿弥

「6」の場面は観阿弥

場所

前場:越前国 味真野(あじまの)  (現在の福井県越前市味真野町)

後場:大和国  (現在の奈良県)

季節

晩秋

分類

四番目物 狂女物

登場人物

前シテ

大迹部皇子の恋人 照日前(てるひのまえ)

面:若女など 唐織着流女出立(女性の扮装)

後シテ

 同

面:若女など 唐織脱下女出立(狂女の扮装)

子方

継体天皇(さきの大迹部(おおあとべ)皇子)

初冠狩衣大口出立(天皇の扮装)

ツレ

照日前の侍女

面:小面 唐織着流女出立

ワキ

継体天皇の臣下

法被大口出立(廷臣の扮装)

前ワキツレ

大迹部皇子の家臣

素袍上下出立(下級役人の扮装)

後ワキツレ

輿舁(こしかき) (2人)

大口モギドウ出立(輿を担ぐ役人の扮装)

概要

越前国にいた大迹部皇子は、にわかに皇位継承が決まり、恋人の照日前(前シテ)に手紙と形見の花籠とを遺して大和へ行ってしまった。手紙を読んだ照日前は恋しさの余り心乱れ、放浪の旅に出る。

大和に着いた照日前(後シテ)は、今や天皇となった皇子(子方)の行列に行き逢うが、天皇の臣下(ワキ)はこの狂女を追い払おうと、彼女が手にしていた形見の花籠を打ち落としてしまう。それを見た照日前は天皇への恋しさと畏れ多さに心乱れ、在りし日の皇子の面影を慕って涙する。そうするうち、御前で舞を舞えとの宣旨を受けた彼女は、自らの叶わぬ思いを託しつつ、古代中国でおこった帝と夫人との悲恋の物語を謡い舞う。その姿に、疑いもない故郷の恋人だと確認した天皇は、彼女を再び宮仕えに召そうと告げ、照日前は晴れて天皇と再び一緒になれたのだった。

ストーリーと舞台の流れ

1 前ワキツレが登場します。

大和朝廷の時代。北陸 越前国に、一人の皇族がいた。彼の名は大迹部皇子。帝の遠い親戚にあたる彼は、都から遠く離れたこの地で、ひっそりと日々を過ごしていたのだった。

そんな彼に転機が訪れる。帝が、彼に皇位を譲ろうと言い出したのだ。にわかに都のある大和へ向かうことになった皇子。心にかかるのは、故郷に遺してきた恋人・照日前。皇子は、彼女への手紙と形見の花籠とを家臣(ワキツレ)に託し、彼女のもとへ届けさせる。

2 前ワキツレから手紙を渡された前シテはそれを読み、悲しみつつ退場します。(中入)

照日前(前シテ)の家を訪ね、手紙と花籠を渡す皇子の家臣。照日前は皇子の行く末を喜びつつも、突然の別れに涙する。彼女は皇子の気遣いに感謝し、手紙を読みはじめる。

『――数ならぬ身ながら、神の子孫として毎日伊勢神宮を遥拝していた神恩ゆえか、帝位につく身となった私。一旦そなたと別れても、いつか再び巡り会おうぞ…』 彼の手跡を前に、涙ぐむ照日前。皇子と一緒の時ですら寂しかったこの山里に、ひとり残されてしまった彼女。彼女は手紙と花籠を抱きしめ、静かに嘆き沈むのだった。

3 ワキ・後ワキツレに伴われ、子方が登場します。

所かわって、ここは大和。無事に都へ着いた皇子は即位を遂げ、継体天皇(子方)となってこの国を治めていた。新時代に相応しい皇居として玉穂宮が造営され、新天皇のもと、新たな国づくりが着々と進められていた。

季節は秋。田には稲穂が豊かに稔り、木々の梢が色づく頃。栄えゆくこの国の錦秋の姿を眺めるべく、天皇は廷臣(ワキ)たちを伴い、遊興の行幸に赴くところである。

4 後シテ・ツレが登場し、狂乱の態を見せ(〔カケリ〕)つつ大和へと向かいます。

その頃――。天皇を慕う照日前(後シテ)は物狂いとなり、形見の花籠を手に、侍女(ツレ)を連れて大和を目指していた。道行く人々に嘲笑されつつも、皇子の手紙の言葉を胸に、彼女は都へと急ぐ。見上げれば、大空を南へ渡る雁たち。雁よ、私も一緒に連れて行っておくれ…。愛する人を恋い慕い、照日前は旅路を急ぐ。

浮かれ漂う旅の足。日を重ね、野山を分け、二人はついに都へたどり着いたのだった。

5 後シテは花籠をワキに打ち落とされ、悲しみの余り狂乱します(〔クルイ〕)。

行幸の列に行き逢った照日前。廷臣はこの見苦しい闖入者を追い払おうと、彼女の持つ花籠を打ち落とす。ショックを受ける照日前。「この花籠こそ、畏れ多くも帝の形見。それを地に落とすとは、私に劣らぬ狂人の所行。神罰の程はいかばかりか! 帝はまだ皇子の頃、毎朝この花籠に花を供え、伊勢を礼拝していました。そのお姿の懐かしさ…。都に来てさえ対面は叶わず、求めて手の届かぬ私の姿は、水の月を望む猿も同然――」 照日前は帝の面影を慕い、声を上げて泣き伏すのだった。

6 後シテは、自らの思いを中国の故事に託しつつ舞を舞います(〔クセ〕)。

その時、舞を舞えとの勅命が下った。この好機に、彼女は自らの思いを託して舞い始める。

――昔、愛する李夫人と死別し、日夜嘆いていた漢の武帝。思いは増さり、悶々とする帝に、幼い太子は言いました。「夫人はもとは仙女の身、もとの仙宮に戻ったのです。彼女の面影を招きましょう」 魂を招く“反魂香”を焚く帝。秋の長夜、幽かに現れた夫人の影。しかし募る思いとは裏腹に、影はそのまま消えてゆきます。いよいよ悲しみにうちひしがれた帝は、夫人との思い出の場所を立ち去らず、ひとり嘆き過ごすのでした…。

8 後シテは花籠を天皇に見せ、再び召されることとなります。(終)

その時、天皇は花籠を見たいと言う。差し出された花籠を見つめる天皇。これこそ疑いもなく、かつて故郷で使っていた品。天皇は、彼女を再び宮仕えに召そうと告げる。

再び巡りあうことの叶った、天皇と照日前。彼女はこの喜びに涙し、行幸の人々に加わる。

やがて時刻は移り、還御の時分。紅葉の間を分けゆく一行。彼女はその御前払いをつとめつつ、玉穂宮へと向かってゆく。こうして、二人の愛は末永く続くのだった――。

(文:中野顕正)

近年の上演記録(写真)

(最終更新:2018年10月)

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