銕仙会

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曲目解説

橋弁慶はしべんけい
月の夜、五条の橋。牛若丸と弁慶の、運命的な出会い。
作者 不詳
場所 前場:比叡山  西塔
後場:京都  五条橋
季節 晩秋
分類 四番目物  斬合物

 

登場人物
前シテ 武蔵坊弁慶 直面  沙門帽子僧出立(僧侶の扮装)
後シテ 直面  頭巾法被半切出立(武装した僧侶の扮装)
子方 牛若丸 白鉢巻厚板大口出立(斬組のための扮装)
トモ 弁慶の従者 素袍上下出立(下級武士の扮装)
間狂言 都の者 肩衣半袴出立(庶民の扮装)

概要

武蔵坊弁慶(シテ)は、毎夜五条天神への参拝を欠かさずにいた。今日はその満願の日。弁慶が準備をしていると、従者(トモ)が、五条橋には不思議な早業で人を斬って廻る少年が出るから、今夜は控えるよう諫める。しかし弁慶は、噂に怖れては無念であると、今夜の参拝を決意する。実は少年は牛若丸(子方)で、今夜は寺へ戻る前の最後の名残にと、五条橋で月を眺めていた。そこへ武装した弁慶(後シテ)がやって来たので、牛若は弁慶を挑発する。弁慶は牛若と戦うが破れ、二人は主従の契りを結ぶ。

ストーリーと舞台の流れ

1 シテが登場し、自己紹介をします。

時は、平安時代末期。京都では平清盛が政治をほしいままにしていた頃。
比叡山の西塔(さいとう)に住む荒法師・武蔵坊弁慶(シテ)は、ある宿願があり、毎夜丑の刻(午前2時頃)に都の五条天神に参拝していた。今日は、その満願の日であった。

2 シテはトモから五条橋の不審者の話を聞きます。

弁慶は従者(トモ)に、今晩も五条天神に参拝する旨を伝える。しかし従者は、昨日五条橋を通りかかったところ、十二、三歳ほどの幼い者が神業のような身軽な動きで斬り廻っているのに遭遇したので、今晩は用心のため、五条辺りに行くのは控えるよう進言する。

3 シテは参拝を決心し、身ごしらえをします。(中入)

しかし弁慶とて、都に名の知れた剛の者。噂を聞いただけで怖じ気づいては無念であると、弁慶は予定通り、今夜の参拝を決心する。
はや夕暮れ時。「五条橋の不思議な者よ、待っておれ」と、弁慶は身ごしらえにかかる。

4 間狂言が登場し、〔立シャベリ〕をします。

その頃、都の人々(間狂言)の間では、五条橋の不思議な少年が話題になっていた。

5 子方が登場し、五条橋にたたずんでいます。

噂の少年の正体は、牛若丸(子方)であった。鞍馬寺に入りながら学問もせず武術に明け暮れていた彼は、母・常磐御前から戒められて明日から寺に戻ろうと決心し、今宵ばかりの名残と、五条橋にやって来た。秋風の吹く中、彼は通る人を待ちつつ、橋のもとに佇む。

6 後シテが登場し、子方を見つけます。

はや暁どき。橋の向こうから、月の光に輝く黒革の鎧を身にまとった弁慶(後シテ)が、大長刀をひっさげ、悠々と歩いてきた。弁慶は牛若を見つけるが、衣を引き被いた牛若を弁慶は女だと思い、素通りしようとする。

7 子方はシテと斬り合い、戦います。

そのとき、牛若は弁慶をからかおうと、すれ違いざまに長刀の柄を蹴り上げる。さてはと気づいた弁慶は、目に物見せようと斬りかかるが、牛若の畳重ねる剣捌きに圧倒される。
弁慶は長刀を取り直し、牛若との戦いを繰り広げるが、遂に長刀を打ち落とされてしまう。

8 子方とシテは互いに名乗りあい、主従の契りを結んで、この能が終わります。

少年の腕前に呆れ果てた弁慶は、彼の名を尋ねる。さては源義朝の子・牛若であったかと知った弁慶は、自らの名を明かすと、牛若を主人と頼むと言うのであった。
こうして主従の契りを結んだ二人は、牛若の屋敷へと戻っていったのであった。

みどころ

「判官びいき」という言葉があるように、源義経は昔から日本人に愛されてきました。その義経がまだ牛若丸と名乗っていた時代の話として、本作は描かれています。
牛若は源義朝と常磐御前との間に生まれましたが、生まれて間もない頃、義朝は平治の乱に敗れて亡くなりました。牛若は京都の北、鞍馬寺に入れられましたが、仏道を学ばず、平家打倒のために剣術の稽古ばかりしていたといいます。
一般的には、五条橋で百人の人を斬り太刀を奪っていたのは弁慶であり、そこに通りかかった牛若が弁慶を屈服させ家臣にしたとされています。しかし本作では、牛若が五条橋で道行く人を斬ってまわっていたことになっています。牛若は、鞍馬寺で真面目に学問もせず、夜な夜な人を斬っていることを母に叱責され、翌朝にはちゃんと寺へ戻ることを母に誓います。その、寺へ戻る前の最後の名残に月を見ようという名目で五条橋にやって来た、その夜の物語が本作の舞台となっています。
小人が大男に勝つ話は、たとえば『旧約聖書』のダヴィデとゴリアテの戦いなどにも見られ、洋の東西を超えて人々が愛好した物語のパターンであるといえましょう。
若い少年役者の演じる牛若丸の、「蝶、鳥の如くなる」活躍を、お楽しみ下さい。

(文:中野顕正)

近年の上演記録(写真)

(最終更新:2017年5月)

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