銕仙会

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曲目解説

橋弁慶(はしべんけい)

◆登場人物

前シテ

後シテ

武蔵坊弁慶

 同

子方 牛若丸
トモ 弁慶の従者
アイ 土地の男

◆場所

【1~3】

 近江国 比叡山  〈現在の滋賀県大津市坂本本町〉

【4~8】

 京都 五条橋  〈現在の京都市下京区 松原橋〉

概要

毎夜の五条天神参詣を続けていた武蔵坊弁慶(前シテ)は、満願の日、従者(トモ)から今夜の参詣を控えるよう進言を受ける。聞けば、最近五条橋には不思議な少年が現れ、神業のような身軽さで通行人を斬って廻るのだという。それを聞いて一度は決心の揺らぐ弁慶だったが、そんな噂に怖れをなしては無念と、彼は改めて今夜の参詣を決意する。

その少年こそ牛若丸(子方)。これまで武芸に明け暮れていた彼であったが、母の誡めを受け、五条橋へ行くのも今夜限りとなっていた。牛若が橋で通行人を待っていると、そこへ弁慶(後シテ)がやって来た。すれ違いざまに弁慶の長刀を蹴上げて挑発する牛若。弁慶は戦いを挑むが、牛若は大剛の弁慶すらをも圧倒し、遂に彼を打ち負かしてしまう。降参して相手の正体を知った弁慶は、牛若との間に主従の契りを結ぶのだった。

ストーリーと舞台の流れ

1 前シテが、トモを伴って登場します。

平安末期。平清盛が源氏一党を壊滅させた平治の乱から十余年の歳月が流れ、京都では清盛率いる平家一門が、天下をほしいままにしていた頃。

その都の北東・比叡山の山中に、一人の荒法師がいた。彼の名は武蔵坊弁慶(前シテ)。弁慶は最近、真夜中の丑刻に京都の五条天神へと参詣を重ねていた。毎夜の参詣に日数は積もり、今日はその満願の日。彼は今日も、参詣の支度に取りかかるところである。

2 前シテはトモから、五条橋にいた不審な少年の話を聞きます。

従者(トモ)を呼び出し、今夜の参詣の旨を伝える弁慶。しかし従者は、思いも寄らぬことを語り出す。聞けば、彼が昨日五条橋に到ったところ、一人の少年が橋の上で次々と通行人へ斬りつけ廻っていたとのこと。小太刀を手に、神業のような身軽さで相手を攪乱するという、その少年。従者は、今晩は用心のため、参詣を控えるよう進言する。

3 前シテは五条天神への参詣を決心し、一度退場します。(中入)

世間広しといえども、類い稀なるその少年。従者の言葉に決心の揺らぐ弁慶であったが、しかし自らとて都に名の知れた剛の者。噂に怖じ気づいたとあっては無念、むしろその化け物を退治してやろう――と、弁慶は改めて今夜の参詣を決意する。

時刻は夕暮れ時。昼間とはうって変わっての怪しい雲行きに、冷たい風が吹きすさぶ。弁慶は、やがて来る夜を今や遅しと待ちかねつつ、夜参の身拵えに取りかかるのだった。

4 アイが登場し、〔立チシャベリ〕をします。

その頃。少年の噂は、都人(アイ)たちの間にも広まっていた。少年に追い回され、九死に一生を得た者。そんな大の大人の狼狽ぶりを嗤う者、野次馬となって群がる者…。こうして、五条橋の少年は今、群衆たちの話題の中心へと躍り出ていたのだった。

5 子方が登場します。

その夜、五条橋に現れた例の少年(子方)――彼こそ、源義朝の子・牛若丸であった。父が平家に敗れて滅んだ後、鞍馬寺に預けられた牛若だったが、彼は武術に没頭し、遂には夜な夜な五条橋で人を斬っていたのだった。しかしそれも今宵限り。彼は母に誡められ、明日からは寺で学問に励むことを誓ったのだ。名残りの夜の月光の下、秋風に立つ川波の情趣に浮かれた彼は、橋のたもとに佇みつつ、通る人を待つのであった。

6 後シテが登場し、子方と遭遇します。

やがて時刻は明け方近く。暁の月が天に残り、鐘の音に夜明けの近いことを知る頃。

そこへ、大鎧に身を固めて長刀を携えた弁慶(後シテ)が、橋の向こうから悠々とやって来た。天魔鬼神にも怖じることなき、堂々たる姿の弁慶。その姿を認めた牛若は喜ぶ。通る人もなく、徒らに今夜一夜を送っていた牛若。牛若はかの者の気を引くべく、薄衣を被いて女に変装する。

7 後シテは子方と斬り結んで戦います。

佇む牛若へ、声をかけようとする弁慶。しかし僧形の身ゆえ女性との交流は禁物と、彼は逡巡しつつも通り過ぎようとする。その刹那、牛若は弁慶の長刀を蹴り上げた。さてはと気づいた弁慶。挑みかかる弁慶に、牛若も小太刀を抜いて斬り結ぶ。圧倒する牛若。弁慶が長刀を取り直して斬りかかれば、牛若は跳び廻って相手を翻弄する。遂に長刀を打ち落とされ、牛若の腕前を目の当たりにした弁慶は、ただ呆然と立ち尽くすのだった。

8 子方と後シテは互いに名乗りあい、主従の契りを結びます。(終)

まだあどけなさの残る面差しで、これほどの力量をもった不思議な少年。名を尋ねる弁慶へ、牛若はついに自らの正体を明かす。氏素性も武芸の腕前も申し分ない、源氏の御曹司・牛若丸。そんな彼を見込んだ弁慶は、自らの名を名乗ると、主従の契りを結びたいと願い出る。こうして牛若の家臣となった弁慶は、この新たな主人に従いつつ、牛若の屋敷へと向かってゆくのだった――。

(文:中野顕正  最終更新:2019年03月26日)

舞台写真

2013年05月10日 定期公演「橋弁慶」シテ:観世銕之丞

今後の上演予定

2019年04月12日 定期公演「橋弁慶」シテ:谷本健吾

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