銕仙会

銕仙会

曲目解説

邯鄲(かんたん)

◆登場人物

シテ 旅の青年 盧生(ろせい)
子方 舞童
ワキ 皇帝の勅使
ワキツレ 廷臣 【3人】
ワキツレ 輿を担ぐ役人 【2人】
アイ 宿の女主人

◆場所

 唐土 邯鄲の里  〈現在の中国 河北省邯鄲市〉

概要

自らの人生に悩む青年・盧生(シテ)は、師を求める旅の途上、邯鄲の里を訪れる。立ち寄った宿屋の女主人(アイ)から、不思議な枕を借りた彼。それは、使えばわが身の進むべき道を悟れるという枕であった。盧生は、早速これを使って眠りにつく。

暫くして、勅使と名乗る男(ワキ)に起こされた彼。彼は、帝位を譲ると告げられ、そのまま大臣たち(ワキツレ)の居並ぶ王宮に連れて行かれる。栄華の日々を過ごし、不老長寿の酒で大宴会を開くなど、歓楽の限りを尽くしていた盧生。しかしそうする内、人々の姿は消え、彼は再び眠りに落ちてゆく。彼が目を覚ますと、そこはもとの宿屋であった。実は今までの出来事は、全てはこの枕が見せた夢。そう気づいた盧生は、儚い無常の世の理を知って満足すると、故郷へ帰ってゆくのだった。

ストーリーと舞台の流れ

1 アイが登場します。

中国 邯鄲の里。この里の宿屋には、不思議な枕が伝わっていた。かつてある仙術使いがこの里を訪れ、宿泊の礼として置いていったという、この枕。これを使って眠るならば、その夢の中で、わが身の行く末を悟ることが出来るという代物であった。

その宿の女主人(アイ)は、今日も旅人の来訪にそなえて支度をしている。

2 シテが登場します。

その頃。蜀の山奥からやって来る、一人の青年がいた。彼の名は盧生(シテ)。漫然とした日々の営みに疑問を感じていた彼は、ある日、楚の羊飛山に住むという高僧の噂を耳にした。今までの平凡な暮らしを悔い改めた彼は、人生の進むべき道を教わろうと、羊飛山へ向かうところである。

振り返れば、故郷は遥か遠くの雲のかなた。山を越え、野を過ぎ、求道の旅路をひた歩む盧生。こうして彼は、邯鄲の里に着いたのだった。

3 シテはアイのもとを訪れ、枕を借りて眠ります。

折からのにわか雨を受け、里の宿屋へと向かう盧生。彼が立ち寄った先こそ、かの不思議な枕をもつ宿であった。枕の故事を聞かされた彼は、自分の進むべき道を知る手始めと、その枕を借り受ける。女主人は、この間に飯を炊いておこうと言い遺すと、彼を部屋に残して戻っていった。

時刻はまだ日中。ひと眠りしようと横になった盧生は、夢の世界へ落ちてゆく。――

4 ワキ・ワキツレ(輿舁)が登場してシテを起こし、王宮に連れてゆきます。

――物音に気づいて目を覚ますと、盧生の枕元には、威儀を正した男(ワキ)が控えていた。聞けば、彼は楚国の勅使で、帝位を譲ろうとの意向を伝えに来たのだという。そばには美しい玉の輿。なおも不審がる盧生だったが、帝王の相貌が具わっていると告げられ、そのまま輿に乗せられる。こうして、彼は王宮へと連れて行かれるのだった。

5 子方・ワキツレ(大臣)が登場し、王宮の威容が謡われます。

盧生の眼前に広がる、王宮のすがた。庭には金銀の砂が敷きつめられ、天高く聳える楼閣に、磨き上げられた玉の門。それは、光輝くばかりの、大宮殿のありさまであった。

玉座についた盧生。その御前には大臣たち(ワキツレ)が座を連ね、捧げられた宝物は山の如くに積み上がる。東に築かせた白銀の山には金色の日輪が光を放ち、西に築かせた黄金の山には純銀の月が顔をのぞかせる。まことに華麗な、王宮の日々。

6 王宮の栄華が謡われる中で子方が舞い、次いでシテが〔楽(がく)〕を舞います。

やがて歳月は流れ、在位は五十年を数えた。ある日、大臣から仙人の酒と盃とを捧げられた盧生皇帝は、この不老長寿の霊酒で大宴会を開く。群臣たちの間には栄華の神盃がめぐり、舞童(子方)の舞は慶賀の宴席に華を添える。ひるがえる童舞の袖は光に輝いて散る花の如く、永遠に続くかと思われる、歓楽の時間。

この大宴会に興じた盧生皇帝は、自らもまた舞楽を舞い、今この時を喜ぶのだった。

7 仙界の神秘が謡われ、やがて子方・ワキツレは姿を消し、シテは再び眠ります。

ついに神仙の身を得た盧生。仙界へと昇った彼が目にしたのは、様々な時刻の風情、四季折々の自然の姿が、同時に存在する世界であった。夜かと思えば昼になり、春の花と秋の紅葉は枝を並べて色を競う。無数の草花がひとときの内に咲き乱れる、神秘の空間。

栄耀栄華を極めた盧生。しかしその時、彼の視界は変形をはじめ、世界はどこかへ吸い込まれるように消えてゆく。盧生は目の前が真っ暗になり、深い闇へと沈んでいった。――

8 アイに起こされ、シテは栄華が夢であったことを悟ります。(終)

――気がつくと、そこはもとの宿屋。目が覚めた盧生は、女主人から食事の支度が調ったことを告げられる。暫し呆然としていた盧生だったが、次第に現実が理解できてきた。「あれは、夢だったのか…」 王宮と見えたのは宿屋の風景。五十年の歳月と思ったのも、飯が炊けるまでの間のこと。人間の栄華を極めたところで、それは短い夢なのだ…。

「この枕こそ、私を導いてくれる善知識であったのか」 枕が見せてくれた夢により、この世の理を悟った盧生。望み叶った彼は、満足そうに、故郷へ帰っていったのだった。

(文:中野顕正  最終更新:2021年06月08日)

舞台写真

2014年01月13日 定期公演「邯鄲」シテ:観世銕之丞
2017年11月10日 定期公演「邯鄲 夢中酔舞」シテ:大槻文藏

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