小鍛冶 (こかじ)
作者 | 不明 |
素材 | 名刀小狐丸の伝説 |
場所 | 稲荷山及び京都・三条宗近邸 |
季節 | 冬・十一月 |
時 | 一条天皇御宇 |
分類 | 五番目物・霊験物 |
登場人物
前シテ | 童子 | 童子面・水衣着流童子出立 |
後シテ | 稲荷明神 | 小飛出面・法被半切赤頭出立 |
ワキ | 三条宗近 | 前:掛直垂大口出立、後:直垂上下出立 |
ワキツレ | 勅使 | 大臣出立 |
アイ | 宗近の下人 | 肩衣半袴出立 |
あらすじ
一条天皇が霊夢により三条の小鍛冶宗近に剣を打たせよとの宣旨を下したため、勅使が宗近の邸に向かう。訪ねてきた勅使から宣旨を伺い、刀を打つときに必要な相槌を打つ者がいないため躊躇するが、決心して氏神である稲荷明神に参詣する。すると童子が現れ、宗近のことや宣旨の内容をすでに知っていると言う。童子は中国や日本に伝わる様々な剣の威徳を語り、剣を打つ壇を飾って自分を待つようにと告げ、姿を消す。宗近はそれに従い、壇を飾り、幣を捧げて神に祈り、「謹上再拝」と唱えると、稲荷明神が現れ、相槌を打ち、宗近とともに刀を打つ。出来上がった剣小狐丸を勅使に捧げ、明神は稲荷山に帰って行った。
舞台展開
- 勅使(ワキツレ)が登場し、三条宗近の私宅へ向かう。
- 勅使が呼び出すと三条宗近(ワキ)が幕から登場し、三ノ松で勅使の用のおもむきを聞き、舞台に入る。
- 宗近は稲荷明神に参詣へ向かう。
- 童子(前シテ)が登場し、宗近に声をかける。
- 童子は中国や日本における剣の威徳を語る。
- 宗近が童子に素性を尋ねると、童子はお告げを残し、走リ込ミで退場する。宗近もそのあと退場する。(中入)
- 宗近の下人(アイ)の語り。
- 一畳台の作リ物を正面先に出した後、ノットの囃子で装束を改めた宗近が再登場する。幣を振って神に祈り、「謹上再拝」と唱え、地謡前で刀を打つ準備を整える。
- 早笛の囃子で稲荷明神(後シテ)が登場し、舞働を舞い、宗近とともに刀を打つ。
- 完成した剣小狐丸を、宗近は稲荷明神に渡し、明神は小狐丸を勅使に献上して退場する。
ここに注目
後シテの稲荷明神は狐であるので、素早い動きや軽やかさが見どころと言える。場所が宗近邸・稲荷山と数回変わるほか、前場のクリ・サシ・クセで語られる剣の威徳の語リや後場のワキの祈誓の段や後シテの舞働、そして後シテとワキの鍛冶の場面と多くの見せ場を持つ、見ごたえある作品である。
(文・江口文恵)