枕慈童
作者
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観世元章(江戸中期の観世大夫) 《菊慈童》の改作
※他流の「枕慈童」は《菊慈童》の別称。
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場所
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中国 酈縣山(れっけんざん) (現在の中国河南省にあるとされる架空の山)
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季節
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晩秋
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分類
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四番目物 唐物
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登場人物
シテ
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八百歳となった慈童
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面:慈童など 慈童出立(不老不死となった童子の扮装)
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ワキ
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漢の勅使
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唐冠狩衣大口出立(中国の廷臣の扮装)
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ワキツレ
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勅使の従者(2人)
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洞烏帽子狩衣大口出立(廷臣の扮装)
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概要
中国 漢の時代。西の奥地・酈縣山(れっけんざん)の麓から霊水が湧き出たとの報せを受けた帝は、勅使(ワキ・ワキツレ)を派遣する。山中に到った一行は、そこで一人の童子(シテ)に出会う。彼は、いにしえ周の代を生きた慈童という者だと名乗り、王の枕を跨いだ罪でこの地へ流されたと明かす。配流に際して王の憐れみを受け、枕に神秘の文句を書き添えて与えられた慈童。この山から流れ出る霊水というのも、その文句が作り出したものだったのだ。
慈童は一行をもてなそうと告げると、仙女たちを招き寄せて音楽を奏でさせる。その音楽に合わせて優雅に舞を舞っていた彼は、この霊水を珠玉の甕に汲み入れると、勅使たちへ贈るのだった。
ストーリーと舞台の流れ
1 ワキ・ワキツレが登場します。
中国 漢の時代。仁徳ある政治によって国土は治まり、人々は平和の日々を謳歌していた。
ここに不思議な出来事があった。西の奥地・酈縣山(れっけんざん)の麓から、霊妙な力をもった薬の水が湧き出したというのである。報せを受けた帝はすぐに勅使(ワキ・ワキツレ)を派遣し、その水源を尋ねさせることとした。
2 シテが出現します。
季節は秋。酈縣の山路には菊の花が今を盛りと咲き乱れ、色鮮やかな山の姿を見せている。一行はそんな菊の間をかき分け、谷川をたどりつつ山深くへと進んでゆく。
そこに現れた、一人の美しい童子(シテ)。この深山幽谷に庵を構える彼は、紅葉と黄菊に彩られた山の景色を眺め、秋の風情を楽しんでいたのだった。
3 ワキはシテと言葉を交わし、シテは自らの正体を明かします。
不審がる勅使に、彼は語る。「私は八百年の昔、周の代を生きた慈童という者。かつて誤って王の枕を跨いでしまった私は、その罪によってこの地へ流されたのです。それでも王はそんな私を憐れみ、枕に神秘の文句を記して与えて下さいました。その句を書きつけた菊の葉を水に浮かべたところ、その水は霊薬へと変じたのです…」 証拠の枕を見せる慈童。そんな彼の言葉に促され、勅使たちは神秘の文句を拝するのだった。
4 シテは〔楽(がく)〕を舞って長寿を言祝ぎ、薬の水を勅使に贈ります。(終)
そんな一行の姿を見た慈童は、この客人たちをもてなそうと告げる。西に向かって手を招けば、神仙世界・崑崙山(こんろんざん)の仙女たちが現れた。仙女の奏でる、妙なる音楽。慈童はそれに合わせ、優雅に舞を舞いはじめる。
不老長寿の霊薬によって、八百歳の命を得た慈童。すっかり上機嫌となった彼は、この薬水を珠玉の甕に汲み入れ、一行に捧げると、御代の長久を言祝いで舞い戯れるのだった。