銕仙会

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曲目解説

仲光 (なかみつ)
 

作者  不明
素材  幸若舞曲「満仲」
場所  多田満仲の館
分類  四番目物・侍物・大小物・直面物[ひためんもの](面をつけない)

 
登場人物

シテ  藤原仲光[ふじわらのなかみつ]  (掛直垂大口出立[かけひたたれおおくちいでたち])
ツレ  多田満仲[ただのまんじゅう]  (風折長絹大口出立[かざおりちょうけんおおくちいでたち])
子方  美女丸[びじょまる]  (長絹大口出立)
子方  幸寿[こうじゅ]  (児袴出立[ちごばかまいでたち])
ワキ  恵心僧都[えしんそうず]  (大口僧出立)
アイ  仲光の従者  (肩衣半袴出立[かたぎぬはんばかまいでたち])

 
あらすじ
 藤原仲光が主君多田満仲の子、美女御前を連れて満仲のもとへ参上します。満仲は美女が中山寺で学問を修行せず武芸ばかりしているので腹を立てています。満仲は美女が経を読めないのを見て怒り、斬り殺そうとします。仲光が制してその場は収まりましたが、満仲は仲光に美女を討つように命じます。仲光の子である幸寿が、自分が美女の身代わりになることを言い出します。仲光は深く思い悩むも、ついに決心をして我が子の首を打ち、美女は落ちのびて行きました。
仲光は美女を討ったことを報告し、出家をしたいと訴えます。そこへ恵心僧都が美女を伴って満仲の館を訪れます。恵心は仲光が美女の代わりに幸寿を討ったことを告げ、美女の助命を願い出ます。満仲は美女を責めますが、恵心の言葉によって美女を許し、酒宴となります。恵心に乞われて仲光は舞を舞います。やがて恵心は美女を連れて寺へ戻り、仲光は涙を流しつつ見送りました。
 
能の物語

  1. 多田満仲に仕える藤原仲光(シテ)は中山寺で学問修行をする満仲の子、美女御前(子方)を連れて満仲の館にやって来ました。美女は学問に励まず、一日中、武芸ばかりしているので、腹を立てた満仲が美女を連れてくるように命じたのです。
  2. 父満仲(ツレ)は美女の前に経を置いて読めるかどうか迫りますが、美女は読むこともできず泣くばかりです。怒った満仲は手打ちにしようと刀に手をかけます。しかし傍に控えていた仲光が袖に取りついてなだめます。
  3. 満仲の美女に対する怒りはおさまりません。満仲は仲光に美女を討つように命令し、館の奥へ入っていきました。
     仲光は美女を逃がそうと思いますが、父と仲光の話を物越しに聞いていた美女は自分を殺すように迫ります。早くも満仲の使いが様子をうかがいに来ています。これも宿縁かと二人は嘆きます。
  4. そこへ仲光の子である幸寿(子方)が美女の身代わりになろうと言い出しました。あまりのことに驚く仲光ですが、我が子を身代りに立てることに決めます。幸寿の後に立って刀を振り上げると、美女が袂にすがり自分も自害をすると泣き出します。仲光は主の命に代わることは武士の習いであると言いますが、主君美女と我が子幸寿への思いで葛藤します。しかしついに親心を押し殺し、我が子に手をかけるのでした。
  5. 仲光は自分の従者(アイ)に美女の供をして逃げるよう命じ、二人は去って行きます。
  6. 仲光が満仲に美女を討ったことを報告すると、満仲は幸寿を自分の子として迎えようと言い出します。仲光は、幸寿は美女との別れを悲しんで出家をしたと答え、さらに自分も出家をしたいと願い出ますが、満仲は許しません。
  7. 比叡山の恵心僧都(ワキ)が美女のことで話があると満仲を訪ねてきます。
  8. 恵心は仲光が美女の代わりに我が子を殺したことを明かして、美女と満仲を対面させ美女の助命を願います。美女を責めた満仲も心を和らげ許しました。
  9. 酒宴となり、仲光は恵心に舞を所望され、子への思いを内に秘めて舞います。仲光は、もし寿幸が生きていればこの場で美女と一緒に舞い、それを自分は手拍子で囃すこともできたであろうと感慨にふけります。
  10. やがて恵心と美女が比叡山へ戻る時となります。仲光は美女の乗った輿へ寄り、学問の精進をうながし、我が子が美女のお供をしていれば…と思いつつ見送るのでした。

 
ここに注目
本曲は幸若舞曲(室町時代に流行った芸能で簡単な所作を伴う語り物)の作品「満仲」を素材に作られました。さらにこの舞曲の「満仲」の源には、仏の教えを人々に知らしめる説教の台本「多田満仲」という作品があるとされます。能〈仲光〉には現代の目から見ると、我が子への思いよりも主君への忠誠が優先されたり、横暴に思える主君であったり、理不尽であり唐突に思える展開や登場人物像がうかがえます。これは先行する舞曲や説教の内容や主題が忘れられ、それらを踏まえた上でこの作品を見ることができなくなったためかもしれません。しかし自分の力ではどうしようもない運命に陥った人間の葛藤と哀愁、諦観、やりきれなさといったものが伝わる作品です。
観世流以外の流儀では曲名が〈満仲〉となっています。
 
(文・中司由起子)

近年の上演記録(写真)

(最終更新:2017年5月)

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