銕仙会

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曲目解説

籠太鼓ろうたいこ
夜も更け、時刻は移りゆく。脱獄した夫の繋がれていた牢で、人質となった妻は夫を慕い狂乱する。
作者 不明
場所 九州 松浦
季節 不詳
分類 四番目物 狂女物
登場人物
シテ 関の清次の妻 面:深井など 唐織着流女出立(一般的な女性の扮装)
途中から、唐織脱下女出立(狂女の扮装)
ワキ 松浦の某 直垂上下出立(武士の扮装)
間狂言 松浦某の従者 肩衣半袴出立(下級武士の扮装)

概要

殺人の罪で主君・松浦某(ワキ)の牢に繋がれていた関の清次は、番人(間狂言)の隙を突いて脱獄する。松浦某は清次の妻(シテ)を召し出し尋問するが、妻は知らぬと言うばかりなので、夫の代わりに牢に繋がせ、牢には時を知らせる鼓をかけさせる。牢の中で狂気となった妻は夫を慕って嘆き、あまりのいたわしさに某が牢から出してやるが、妻はなおも夫を慕い、鼓を打って狂乱し、この牢こそ夫の形見よと言う。見かねた某が夫婦ともに赦そうと誓うと、妻は喜び、夫のもとへと下ってゆく。狂乱は夫を庇うための偽りだったのであった。

ストーリーと舞台の流れ

1 ワキ・間狂言が登場します。

九州、松浦の地。この地に住む武士・関の清次は、以前、領地をめぐる口論から相手を殺害してしまい、主君・松浦の某(ワキ)のもとに身柄を拘束されていた。
ところが、今日、牢獄の番人(間狂言)が清次をつないである牢に行ってみると、なんともぬけの殻ではないか。某は、脱獄した清次の行方を尋問すべく、その妻を召し出す。

2 シテが登場し、牢獄の作リ物に入れられます。

召し出された清次の妻(シテ)に、某は清次の行方を問いただすが、妻は知らぬと言うばかり。「夫は卑しい者ですから、自分ひとりが助かったことに満足して、私には何の音沙汰も無く…。夢にも存じておりません」と供述する。
某は、妻が行方を知らぬはずは無いと、彼女を夫の代わりに牢に入れさせ、牢には時を知らせる鼓を掛けさせて、一刻ごとに鼓を打つよう番人に命じる。

3 シテは作リ物の中で述懐します。

妻は牢の中で、夫に逢えぬ悲しさから涙に咽ぶ。妻が狂気になったと番人から報告を受けた某は、夫の在処さえ白状すれば牢から出してやろうと言うが、それでも妻は知らぬと言い、たとえ知っていたとしてもどうして白状しようかと言う。妻の心に感じた某は彼女を解放しようとするが、妻は、自分は夫の代わりとしてここにいるのだ、この牢こそ夫の形見よと、牢を出ようとしない。

4 シテは、牢にかけられた鼓を見て狂乱し、〔カケリ〕を舞います。

妻のあまりのいたわしさに見かねた某は、夫婦ともに赦してやろうと言う。
夫の行方を案じ、悲しみに暮れつつ牢を出た妻は、そこに掛けられた鼓に目がとまる。「ああ、時を知らせる鼓。古い歌には『時の鼓は鳴っても、あなたはまだ来ない』とあるけれど、私はあの人が現れるまで、いくらでも待っているわ…。」 妻は夫を想い、狂乱する。

5 シテは鼓を打って感傷にふけり、狂乱の舞を舞います。(〔鼓之段〕)

妻は心を慰めるべく、鼓を打ちはじめる。
早くも日は西の空に傾く。「不実な夫と離れ離れ、今頃どうしているのやら。私のことを思ってくれてはいるのかしら。恋も恨みも無い世なら、こんな憂いも無かろうに…。」 夜は更けてゆく。「ああ恋しい、愛する夫と夢で逢えた。私が身代わりになってこそ、あの人と二世を契った甲斐もあろうもの。もはやこの牢を出ることはあるまい…。」

6 ワキは夫婦を赦し、シテは夫のもとへと下ってゆき、この能が終わります。

そのとき某は「この上は、神に誓って夫婦ともに赦してやろう」と言う。その言葉を聞くや、妻は正気に戻り、夫の在所を明かす。実は妻は夫を庇うため、あえて狂乱を装っていたのだ。ちょうど今年は某の親の十三回忌、その供養のためにも夫婦を助けてやろうと某は誓う。
夫のもとへ、急ぎ下ってゆく妻。これというのも、美しい二世の契りの縁なのであった…。

みどころ

本作は、夫を恋い慕って狂乱する女を描いた「狂女物」のジャンルに分類されますが、その中でも、本当に狂気したのではなく、脱獄した夫の身を庇うために偽って狂乱を装うところが本作の特徴となっています。
本作では、間狂言が活躍します。清次の脱獄を松浦某に報告する時のセリフ「抜けてござる」は、〈道成寺〉の「落ちてござる」、〈安達原〉の「見てござる」とともに「三ござる」と呼ばれて親しまれてきましたが、そのように滑稽味をもちつつストーリーの進行の上で大活躍するのが本作の間狂言となっています。
しかし、そのように他の登場人物が活躍をしつつも、それはあくまでもシテを引き立てるためであり、本作は夫を慕って狂気した(風を装っている)シテの、心情の表現がみどころとなります。牢獄にかけられた鼓、さらに牢獄そのものを見ては、愛する夫を思い出して舞い狂うシテ。その狂乱の場面である〔鼓之段〕は、「六つの鼓打とうよ」「五つの鼓は偽りの」「四つの鼓は世の中に」「九つの夜半にもなりたりや」など、数え歌のような巧みな表現で描出され、本作のクライマックスとなっています。

(文:中野顕正)

近年の上演記録(写真)

(最終更新:2017年5月)

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