銕仙会

銕仙会

曲目解説

龍虎りょうこ]

作者 観世信光
素材 龍虎に関する中国の故事や絵画など
場所 唐土(中国)の山の中
季節 春
分類 五番目物・鬼物・太鼓物

登場人物

前シテ 木こりの老人 笑尉または朝倉尉・着流尉出立
後シテ 獅子口・顰出立、白頭に虎載
前ツレ 木こりの男 水衣男出立
後ツレ 黒髭・龍神出立
ワキ 大口僧出立。着流僧出立にも
ワキツレ 同行の僧 大口僧出立。着流僧出立にも
アイ 仙人または所の者 登髭の類・末社出立 または肩衣半袴出立

あらすじ
 仏跡を求めて中国に渡った僧が木こりの老人と男に出会い、龍虎の戦いのことを聞きます。僧の目の前で、雲を起こす龍と風を生む虎の激しい戦いが繰り広げられます。

舞台の流れ

  1. 囃子方が橋掛リから能舞台に登場し、地謡は切戸口から登場して、それぞれ所定の位置に座ります。
  2. 僧(ワキツレ)と同行の僧(ワキツレ)が「次第」の囃子で登場します。
    僧は、若い頃から日本のあらゆる所を旅したので、次は仏法が広まった跡を尋ねるために中国・インドへ渡ろうと思い立ち、
    春、九州博多の津から船に乗り、広々とした海に漕ぎ出し、たくさんの島を過ぎて海原を進み、唐土にたどり着きました。
  3. あちこちを見物しようと、僧たちは景色を眺めながら詩を吟じます。
    この地は、「浦に霞が立ち込め、人里は遠く、湖水は空と見分けがつかないほどで、雁が点々と遠い空を遙かに飛んでいる」と詠まれた詩の通りの場所。
    遠くの山の麓の竹林に、霞が立ち込めています。
    僧は、険しい山路に沿って木こりが近づいて来るのを目にして、彼らに名所を訪ねることにします。
  4. 「一声[いっせい]」の囃子で、木こりの老人(前シテ)と男(前ツレ)が舞台に登場します。
    山おろしが吹き、春の花の香りが辺りに漂う中、柴を背負い、杖をついた老人は花の枝を折って薪に挿し、若い男と連れ立って山道を歩いています。
    老人は漢詩を口ずさみつつ(「五つの山嶺に連なる山並みは青々として、その上を白い雲が静かに動き、たくさんの梅が明るく咲いている」)、春の景色をたたえます。
    しかし、老いの身で美しく明るい春の光にあたっても時が戻るわけでもなく、わびしい木こりの仕事のつらさを嘆くのでした。
  5. 僧が仏法流布の跡を追って中国を訪れ、さらにはインドにも行こうとしていると話すと、老人は、星の国つまりインドは果てしなく遠く、目の前に見えるものを捨てて、仏法を外に求めるのは、はかないことであると言います。
  6. 老人の言葉に興味を持った僧は、遠山の麓の竹林に雲が急にかかり、風が凄まじく吹いて、恐ろしい景色に見える訳を尋ねます。
    すると老人は、竹林の岩穴は虎の住み処で、向かいの高い山から雲がかかって、龍と虎の戦いがあると答えます。
  7. 老人は舞台の中央に座って、龍と虎の強さや素晴らしさを語り始めます(クリ・サシ・クセ)。
    生ある者が威勢を争うのは、人間でも同じことで、必ずしも龍虎に限ったことではありません。
    龍は位が高く、雲の上に住んでいるので、龍の紋は帝の衣にも織り込まれています。
    とくに天子の顔を龍顔[りょうがん]と申し上げ、その乗り物を龍駕[りょうが]とも言い、龍は高貴な身分の人と深く関わります。
    さてまた虎は少しの間、住むにしても千里の道のりがある場所を住み処にし、真っ直ぐで内側の清らかな竹を友としています。
    仏の道へも心を寄せて羅漢(仏の弟子の一人、跋陀羅[ばったら]尊者)にお仕えし、さらに虎の姿は、禅画の「四睡(豊干・寒山・拾得が虎と共に眠っている絵)」にも描かれています。
    龍が声を上げると雲が起こり、虎が吠えると風が生まれると、数多くの詩などで詠われています。
    そんな詩と同じような有り様を目の当たりにするのは不思議なことですと、老人は語り終え、詳しく目撃したいのならば、竹林のこちら側の岩の陰に身を隠しながら、ご覧なさいと勧めます。
    そして暇を申すと、薪を肩に谷の下道を家路目指して下って行き、老人と男の姿は見えなくなりました(「来序[らいじょ]」という荘厳な囃子で中入リ)。
  8. 軽快なリズムの「狂言来序」の囃子で仙人(アイ)が登場します。
    仙人は龍虎の戦いについて語り、戦いの時刻が近づいたので見物するように促します。
  9. 後見が一畳台を小鼓と大鼓の前に置き、竹林の作リ物をその上に据えます。
  10. 僧たちは老人が教えてくれた通りに山路に分け入り、竹林を見渡す場所へとやって来ました。
    辺りは夜のように暗く、竹の枝が音を立てて物寂しい雰囲気です。
    あれよという間に嶺より雲が起こり、急に雨が降り出します。
    雷が鳴り響き、稲妻が光る中に金色の龍(後ツレ)が現れました。
    後ツレは橋掛リで立ち止まり、本舞台の様子をうかがっています。
  11. 黒雲が竹林を覆ったと見えると、洞穴に籠もっていた虎が現れ、強い風を吹き出して龍の起こした雲を吹き返します。後シテは竹林の作リ物から登場します。
  12. 龍が雲より降り下って虎に飛びかかり、戦いが始まりました(「打合イ働」)。
  13. 虎が竹の枝を折って龍に飛びかかると、龍は虎に巻き付こうと覆いかかりますが、逆に虎はこれを避けて龍を追い詰め、食い殺そうとします。
    そこで龍が雲に昇ってしまうと(後ツレは幕に入る)、虎は巌に上って見送り、無念な様子でしたが、また竹林へと飛び帰って、洞穴に入って行きました。
  14. シテが橋掛リを通って揚げ幕へ退場し、ワキ・ワキツレがその後に続き、後見が作リ物を幕へ運び入れます。最後に囃子方が幕へ入り、地謡は切戸から退いて能が終わります。

ここに注目
 この作品は、視覚にポイントを置いた趣向や構成、主題などの点から観世信光の作であるとされています。見た目も派手で、異国を舞台に人間ではない者同士、異類の戦いが描かれます。
 室町時代に好まれた絵画の題材の一つが、龍と虎が対峙している図でした。また作品中には、虎と龍に関わる中国の故事などが数多く引かれます。龍虎の戦いそのものを素材にした故事や漢詩もあり、これらのような文芸や絵画に描かれた龍虎の戦いを能にしたと考えられています。

(文・中司由起子)

近年の上演記録(写真)

(最終更新:2017年5月)

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