鷺 (さぎ)
作者 不明
出典 『平家物語』巻5「朝敵揃」
場所 都、神泉苑
季節 夏
分類 五番目物、特殊物、太鼓物
登場人物・面・装束
シテ | 鷺 | 直面、延命冠者・天仙出立 |
ツレ | 天皇 | 初冠狩衣大口出立 |
ワキ | 蔵人 | 掛直垂大口出立 |
ワキツレ2人 | 臣下 | 洞烏帽子狩衣大口出立 |
ワキツレ2人 | 輿舁 | 大口モギドウ出立 |
アイ | 官人 | 官人出立 |
あらすじ
都の神泉苑に御幸をした天皇が池のほとりで一羽の鷺を見つけ、捕えるように命じます。鷺は飛び立ち逃げてしまいますが、天皇に仕える蔵人が天皇の命令であると鷺に呼びかけると、鷺は元の場所に飛び戻ってきました。感心した天皇が鷺に五位の位を授けると鷺は喜びの舞を舞います。
舞台の流れ
- 囃子方が橋掛リから能舞台に登場し、地謡は切戸口から登場して、それぞれ所定の位置に座ります。
- 延喜の帝に仕える官人(アイ)が舞台に登場し、帝が神泉苑の池に御幸されるということを触れます。
- 「一声」の囃子で輿に乗った天皇(ツレ)が蔵人(ワキ)や臣下たち(ワキツレ)を従えて登場します。
宮中では季節ごとに詩歌管弦の遊びが行われ、蔵人をはじめ臣下たちは御代を讃えます。
今はちょうど夏。
夕涼みをしようと天皇の行列が神泉苑(天皇のための庭園)に到着しました。 - 神泉苑の池には島があり、波が悠々と寄せています。
天皇はまるで琵琶湖のようだと思い、詩を詠んで広々とした景色を眺めています。
さらに「鷺のいる、池の汀に松ふりて…」と歌を口ずさみ、素晴らしい池の風景を楽しんでいました。 - いつのまにか池に一羽の鷺(シテ)が舞い降りています。
天皇は鷺を捕えるように命じます。
蔵人が鷺を狙い近寄るのですが、鷺は羽音を立てて飛び立ってしまいました。
しかし「勅定(天皇の命令)であるぞ」と鷺を呼ぶと、鷺は元の場所に飛び下り、羽を垂れて地面に伏せています。
蔵人が鷺を抱きとって天皇のお目にかけると、
人々は、鷺が戻って飛び下ったのも天皇の徳であると喜び、 - めでたいことだと感じ入り、盃を勧め合い、舞楽を奏します。
天皇は鷺を捕らえた蔵人に位を与え、鷺にも五位の位を授けました。
すると鷺は喜び、舞(乱[みだれ])を舞います。
天皇が勅に従う鷺に感心し、放してやるように言うと鷺は嬉しそうに飛び立ち去っていきました。 - シテが橋掛リから揚げ幕へ退場し、ツレ・ワキ・ワキツレがその後に続きます。
最後に囃子方が幕へ入り、地謡は切戸から退いて能が終わります。
ここに注目
鷺が人間を超えた存在として描かれています。白一色の装束も鷺の清らかさを表しています。
作品の成立には鷺舞や延年の大風流の影響が見えることが指摘されています。鷺舞は京都祇園会の笠鷺鉾で舞われていたものです。延年の大風流延年は、華やかな衣装や山車などの舞台装置を用いて、物まねの要素を取り入れた筋の簡単な仮装劇で、寺院でおこなわれていました。
鷺の舞う「乱」は水辺で遊ぶ鷺の様子をうつしたものだとされ、足遣いに注目です。本曲の鷺は原則として少年、または還暦を過ぎた能楽師が直面で舞います。
(文・中司由起子)
近年の上演記録(写真)
(最終更新:2017年5月)