銕仙会

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曲目解説

西王母せいおうぼ
治まる御代に感応し、神仙世界から来臨した秀麗な仙女。三千年に一度みのるという桃を捧げ持ち、彼女は君の恵みを讃美する。
作者 未詳
場所 中国の王宮
季節 晩春
分類 脇能物 女神物

 

登場人物
前シテ 西王母の化身 面:増 唐織着流女出立(一般的な女性の扮装)
後シテ 西王母 面:増 天女出立(女神の扮装)
前ツレ 西王母の侍女 面:小面 唐織着流女出立
後ツレ 西王母の侍女 面:小面 側次女出立(中国の女性の扮装)
ワキ 帝王 唐冠狩衣大口出立(中国の宮廷人の扮装)
ワキツレ 帝王の臣下(2‐3人) 唐織狩衣大口出立
間狂言 官人 官人出立(中国の官人の扮装)
※前ツレは登場しない場合もあります。また、ツレは子方(子供の役者が演じる役)として演じられる場合もあります。
※ワキ「帝王」は、間狂言により、「周の穆王ぼくおう」として下記「1」の場面で紹介されることがあります。

概要

治まる御代、中華皇帝(ワキ)が臣下たち(ワキツレ)を従えて王宮に座していると、そこへ不思議な女たち(前シテ・前ツレ)が現れ、三千年に一度実を結ぶという、仙女・西王母の花園の桃の実を献上する。女たちは、自らを西王母の化身であると明かし、昇天してゆく。やがて西王母(後シテ)が侍女(後ツレ)を伴って真の姿で現れ、数々の捧げ物を皇帝に献上すると、治世を言祝ことほぎ舞を舞う。

ストーリーと舞台の流れ

0 宮殿をあらわす作リ物が舞台上に運び出されます。

1 間狂言が登場し、場面背景を説明します(〔狂言口開くちあけ〕)。

世界に威光を輝かせる、中華帝国。皇帝陛下の威光は日月の如く明らかに、その恵みは海の如く広大である。

その皇帝がこれから宮殿に出御されるので、官人(間狂言)はその露払いをつとめている。

2 ワキ・ワキツレが登場し、治世祝福の謡が謡われます。

やがて、皇帝(ワキ)と臣下たち(ワキツレ)が重々しく出御した。「太古の昔の理想の世にも劣らぬ、治まる今の聖代。君の恵みに天下は富み栄え、威光は天下に充ち満ちている…」 百官は袖を連ねて王宮を拝し、万民は平和な世を謳歌している。まことにめでたい、御代の春である。

3 前シテ・前ツレが桃の実をたずさえて登場します。
※前ツレは登場しない場合もあります。

そこに、不思議な女たち(前シテ・前ツレ)がやってきた。「『桃李は物言わずとも、その木の下には自ずと人々が集まって来る』とは、聖人をたとえた昔のことわざ。三千年に一度実を結ぶという、この桃。治まる今の御代にみのったこの桃を、陛下に捧げ申し上げよう。普く広き御心を具えられた、我が君に…。」

4 前シテはワキに謁見し、桃の実を献上します。

皇帝の御前に至った女たちは、この三千年に一度みのる桃の実を皇帝に献上する。皇帝は女たちに下問する。「三千年に一度実るとは、かの仙女・西王母の花園に咲く、伝説の桃か。」 伝説の桃が実るのも、全ては皇帝の徳に天道が感応したゆえ。治まる御代の、長閑な春のありさまである。

5 前シテ・前ツレは自らの正体を明かして消え失せます(中入)。

その仙界の桃を持参した、この女たち。「実は私こそ、仙女・西王母の化身。君の御威光に感応して、こうして現れたのです。やがて再び来現し、真の姿をお目に掛けましょう…」 そう言うと、女たちは昇天していったのだった。

6 間狂言が本舞台に進み出、ワキの下問に答えます。

皇帝は官人を呼び出し、西王母のことを尋ねる。官人は、西王母とは中国の西にある神仙郷に住む仙女であること、三千年に一度実る桃の実は不老長寿の妙薬であることなどを奏上する。

7 ワキが待っていると、後シテ・後ツレが登場します。

やがて、天からゆったりとした音楽が聞こえ始め、西王母(後シテ)が侍女(後ツレ)を引き連れて来臨した。空には伝説の鳥たちが飛び翔り、天の羽衣はひらひらと風になびく。数々の捧げ物をたずさえた侍女たちに囲まれ、光輝くその姿。くれないの衣にぎょくの剣を佩き、冠をいただく装いは、まさに神仙そのもの。

8 後シテは〔中之舞ちゅうのまい〕を舞って治世を祝福し、この能が終わります。

西王母は桃花の盃を皇帝に勧め、治世を言祝ことほいで舞を舞う。

長閑な春の、酒宴の席。仙女の衣は風を受けてひるがえる。そうするうち、春風にいざなわれるように仙女は天界へと昇ってゆき…、姿は見えなくなってしまったのだった。

 

みどころ

本作では、西王母の花園に咲く、三千年に一度実を結ぶ桃の実が、話題の中心となっています。

西王母とは中国で信仰されている女神で、中国の西にある仙郷・崑崙こんろん山に住んでいるとされています。その桃の実は不老長寿の妙薬とされ、能楽でも本作や〈東方朔とうぼうさく〉に描かれています。

桃の実というのは、古代以来、中国や日本において、不思議な力をもつ果実であると考えられてきました。こんにちでも理想郷の代名詞として知られる中国の神仙世界のひとつ「桃源郷」は、その名にも「桃」の字が入っているように桃とは縁が深く、山の中にあって桃の林をぬけていった先にある世界とされていました(陶淵明『桃花源記』)。また日本神話でも、黄泉の国から逃げ帰るイザナギの守は追いかけてくる鬼たちに向かって桃の実を投げつけ撃退したとされており、これらの神話・伝説が示すように、桃の実や桃の木には神仙に通じる不思議な力や強い霊力がそなわっていると考えられていました。その不思議な果実である桃が皇帝に献上され、神仙の力によって治世が祝福されるというのが、本作の主題となっています。

三千年に一度実を結ぶ桃の、不思議な神仙世界。その神秘的空間から姿を現した仙女の、妖艶美麗な姿をお楽しみ下さい。

(最終更新:2017年5月)

(文:中野顕正)

近年の上演記録(写真)

2016年7月定期公演「西王母」シテ:長山桂三

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