舎利
作者
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未詳
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場所
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京都 泉涌寺 (現在の京都市東山区泉涌寺)
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季節
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不定
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分類
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五番目物 鬼物
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登場人物
前シテ
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里の男 じつは足疾鬼の化身
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面:三日月など 水衣着流怪士出立(異形の者の扮装)
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後シテ
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足疾鬼(そくしつき)
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面:顰(しかみ) 顰出立(鬼神の扮装)
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ツレ
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韋駄天(いだてん)
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面:天神 輪冠側次大口出立(仏法を守護する神の扮装)
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ワキ
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旅の僧
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着流僧出立(僧侶の扮装)
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アイ
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泉涌寺の下働きの僧
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能力出立(下働きの僧の扮装)
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概要
旅の僧(ワキ)が京都 泉涌寺を訪れ、仏舎利を拝んでいると、そこに一人の男(前シテ)が現れる。二人は釈迦在世の跡を慕い、舎利を拝んでいたが、そのとき男は鬼の姿となり、舎利を奪って逃げてしまう。実はこの男こそ、釈迦入滅の折にその遺骨を奪って逃げた、足疾鬼の執心だったのであった。
驚いた泉涌寺の僧(アイ)は、むかし足疾鬼から舎利を奪い返した神・韋駄天に祈り、かの舎利を取り返そうとする。祈りに応じて現れた韋駄天(ツレ)は、逃げてゆく足疾鬼(後シテ)を天高くまで追い詰めると、ついに舎利を取り戻すのであった。
ストーリーと舞台の流れ
1 ワキが登場します。
京都 泉涌寺。釈迦の歯の遺骨「牙舎利(げしゃり)」を祀るこの寺は、戒律を保ち、釈迦在世を慕う仏教者たちにとっての、心の拠り所となる寺であった。
そんなこの寺を目指してやって来た、一人の僧(ワキ)。出雲国から遥々都へと上ってきた彼は、名高き舎利や十六羅漢像を拝もうと、境内へと入ってゆく。
2 ワキはアイから舎利の拝観を許され、牙舎利を拝みます。
彼は寺の下働きの僧(アイ)に、舎利を拝観したいと願う。滅多に公開されない秘宝ではあったが、ちょうど今日は御開帳の日。下働きの僧は、舎利を祀る舎利殿へと案内する。
恭しく祀られた、釈迦の真骨。その崇高な姿に、僧は随喜の涙を流す。「むかし足疾鬼が奪い取り、韋駄天によって取り戻されたという、牙舎利の神々しいお姿。それを目の当たりにできた今、お釈迦様にまみえたような心地だ。ああ、有難いこと…」。
3 前シテが登場します。
そこへ現れた、一人の男(前シテ)。「有難いこと。釈迦がこの世におられた時、間近く御説法を拝聴した、その時のことが思い出される…。末法の世にまで仏舎利に執心を留めるこの身。今こうして舎利を拝むことができるとは、嬉しいことだ」 怪しげな雰囲気を漂わせる男。彼は舎利殿の前に立ち、由ありげな様子で牙舎利を見つめているのだった。
4 ワキは前シテと言葉を交わします。
宝前で法悦にひたっていた僧は、この男に気づく。男は、この近隣に住む者と名乗り、僧の唱える礼讃の声にひかれてやって来たのだと明かす。僧は同じ志をもつ彼を迎え入れ、ともに仏舎利を拝もうと言う。
こんこんと湧く霊泉に、谷を流れる小川の音。松吹く風や鐘の音は、無明の眠りを覚ますよう。仏舎利を拝む二人の耳に届くのは、そんな泉涌寺の聖域のありさまであった。
5 仏舎利の功徳が謡われます(〔クセ〕)。
――釈迦入滅の後。仏法は東へと伝わってゆき、霊験あらたかな仏像たちもまた、みな日本へとやって来た。釈迦在世の昔は仏法の功徳に栄えていた天竺霊鷲山の草花も、今や寂しくさびれ果て、わずかに教えの余香を残すのみ。それに比べ、いま眼前の、泉涌寺の仏舎利の尊い姿。それは、わが日本で栄え続ける、釈迦の教えの妙なる光。そんな仏在世にも等しい、この寺の功徳の有難さよ…。
6 前シテは自らの正体を明かし、舎利を奪って消え去ります(中入)。
心静かに舎利を拝んでいた僧たち。しかしそのとき、一天にわかにかき曇り、辺りは凄まじい雷雨となった。「実は我こそ、いにしえの足疾鬼の執心。今なお、この舎利に未練があるのです。お坊様、お許しくだされ…!」 そう明かした男の容貌は、見るみる内に変じてゆく。男は、舎利に手をかけるや否や、舎利殿の天井を踏み破り、天へと昇っていったのだった。
7 アイが再登場し、ワキと言葉を交わします。
騒ぎを聞いて駆けつけた、下働きの僧。見ると、祀られていたはずの仏舎利が無い。旅の僧から事情を聞いた彼は、いにしえ足疾鬼から舎利を取り返した韋駄天に祈り、再び舎利を取り戻そうと言う。
8 アイが祈っていると、後シテが登場します。
釈迦入滅の折、その牙舎利を奪った足疾鬼から、舎利を取り戻した韋駄天。その威徳に再びあずかるべく、下働きの僧は数珠を揉み、肝胆を砕いて祈りを捧げる。
その頃――。天空のかなたでは、足疾鬼(後シテ)が仏舎利を抱きかかえ、一目散に逃げていた。
9 ツレが登場し、後シテと争います(〔打合働〕)。
祈りに応えて出現した韋駄天(ツレ)。韋駄天は足疾鬼を追い、天高くへと昇ってゆく。
何層にも重なった、天の世界。足疾鬼は天空を自在に飛びまわり、追撃を攪乱しようとする。韋駄天も負けじと追いまわし、天の世界に飛び翔る。神通力をもつ者同士の、一対一の攻防戦。
10 後シテはツレに責め立てられ、ついに舎利を差し出します。(終)
やがて、その攻防戦も決着がついた。足疾鬼を追い詰めた韋駄天は宝棒で鬼を責め立て、足疾鬼は泣く泣く、舎利を差し出すのであった。
こうして、泉涌寺には無事、牙舎利が戻ってきた。足疾鬼は激戦のすえ遂に力尽き、そのまま消えていったのであった――。