銕仙会

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曲目解説

俊成忠度 (しゅんぜいただのり)
 

作者  内藤河内守
素材  『平家物語』巻七「忠度都落」・巻九「忠度最期」
場所  京都 藤原俊成[ふじわらのとしなり]の邸宅
季節  春
分類  二番目物、修羅能、大小物

 
登場人物・面・装束

シテ  平忠度の亡霊  中将または今若・修羅物出立
ツレ  藤原俊成  直面[ひためん](面をつけません)・風折長絹大口出立
トモ  俊成の従者  直面・素袍上下出立
ワキ  岡部六弥太忠澄
 [おかべのろくやたただずみ]
 掛直垂大口出立

 
あらすじ
源平の合戦で平忠度を討ちとった岡部六弥太が藤原俊成のもとへ忠度の歌が書かれた短冊を持って来ました。すると俊成の前に忠度の霊が現れ、『千載和歌集』に自分の名前が記されていないことを嘆きます。忠度と俊成は和歌について語り合いますが、修羅の苦しみが忠度を襲います。忠度は修羅道の戦いの様子を見せると、やがて消えて行きました。
 
舞台の流れ

  1. 囃子方が橋掛リから能舞台に登場し、地謡は切戸口から登場して、それぞれ所定の位置に座ります。
  2. 藤原俊成(ツレ)が従者(トモ)を従えて舞台に登場し、着座します。今から始まる能は都五条の俊成の邸宅での出来事です。
  3. 武蔵の国の武士岡部六弥太忠澄(ワキ)が俊成の屋敷を訪ねてきます。実は六弥太は源平の合戦で平忠度を討ちとり、その亡骸から和歌を記した短冊を見つけたのでした。そこで短冊を忠度と和歌の友であった俊成のもとに届けようとします。
  4. 六弥太は従者に取り次ぎを願い、俊成と会い短冊を手渡します。俊成は短冊の歌を詠み上げます。「行き暮れて木の下陰を宿とせば、花や今宵の主ならまし」
    六弥太は屋敷を退出し(舞台から退く)、俊成は武将としても歌人としても優れていた忠度が極楽の彼岸へたどり着くように祈ります。
  5. 俊成が忠度の成仏を願っていると、忠度の亡霊(シテ)が現れます。自分は修羅道(生前に戦いをした者が墜ちる地獄)に沈んでいるけれども都の春にひかれ、俊成と共に眺めた花を思い出して会いに来たと言います。
  6. 忠度は俊成に勅撰集の『千載和歌集』におさめられた自分の歌が「詠み人知らず(作者の名前が歌に示されないこと)」になっていることを訴えます。俊成は平氏として朝廷の敵となってしまった忠度の名前を出すのは難しいと答えますが、この歌がある以上、名前が世間に知られないことはないでしょうと慰めます。
    その歌は「さざ波や志賀の都はあれにしを、昔ながらの山桜かな」。忠度は短くもはかない人生に思いをはせます。
  7. 忠度と俊成は向かい合って座り、和歌について語り合います。和歌のはじめは、素戔鳴尊[そさのおのみこと]が出雲で詠んだ「八雲立つ出雲八重垣妻こめに、八重垣つくるその八重垣を」にあるという話です。
    さらに忠度は合戦で須磨の浦に赴いたとき、柿本人麻呂の詠んだ「ほのぼのと明石の歌の朝霧に・・・」の情景にまさに思い至りましたと話します。夜の間ずっと二人は名残を惜しんで語り合ったのでした。
  8. しかし急に忠度が立ち上がり、恐ろしい興奮した様子になります。俊成は忠度のただならぬ有様に驚きます。修羅道の戦いの時となったのです。忠度は囃子の演奏に合わせ、舞台の要所で足拍子を踏み、舞台を二周します(カケリ)。このカケリは修羅の苦しみや戦いの興奮を表現したもので、囃子には緩急があり、忠度の心の高ぶりを示すようです。
  9. もはや忠度にはあたりが修羅の戦場となって見えています。修羅王と梵天、帝釈天が争い、修羅と天の軍勢が乱れ合う中、忠度は刀を抜き、矛を振り払い戦います。天からは火の車が降りかかり、地よりは鉄の刀が突き出し足を貫きます。立っても座ってもいられないほどの激しく恐ろしい地獄の責めです。忠度は太刀を捨てて、崩れ落ちるように座りこみ嘆くのでした。
  10. しばらくすると、忠度の「さざ波や」の歌に心を寄せた梵天が責め苦を許してくれました。暗闇の中、春の夜更けの月をしのんでいると、夜は白々と明けていきます。早くも曙の鶏の声も聞こえ、忠度の姿は山の木陰に隠れて見えなくなってしまいました。
  11. シテが橋掛リから揚げ幕へ退場し、ツレがその後に続きます。最後に囃子方と地謡が舞台から退き、能が終わります。

 
ここに注目
平忠度を主人公にした能には〈忠度〉がありますが、〈俊成忠度〉はそれとはまた異なる構想で作られています。〈忠度〉は「行き暮れて…」の和歌が主題となっていますが、〈俊成忠度〉では忠度のもう一首の代表歌「さざ波や…」が主題歌です。戦いの場面にも違いがあり、〈忠度〉は自分が討たれた様子を再現して僧に見せますが、〈俊成忠度〉では生前の合戦ではなく、今まさに忠度が墜ちている修羅の世界、地獄での合戦の様子が中心となります。
本曲には、俊成と忠度が歌の道について語り合う場面があり、その場面を挿入することで忠度の和歌への強い思い入れを表しています。
 作者の内藤河内守は細川家に仕える武士で、『源氏物語』の夕顔の上を主人公にした〈半蔀〉を作詞しました。
 
(文・中司由起子)

近年の上演記録(写真)

(最終更新:2017年5月)

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