銕仙会

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曲目解説

玉鬘 (たまかずら)
 

作者  金春禅竹
素材  『源氏物語』「玉鬘」など
場所  大和(現在の奈良県)初瀬川の岸辺、二本(ふたもと)の杉のあたり
季節  秋
分類  四番目物 執心女物

 
登場人物

前シテ  初瀬の里の女  深井または増[ぞう]、小面、若女・水衣女出立[みずごろもおんないでたち]
後シテ  玉鬘の霊  十寸髪[ますかみ]・唐織脱下女出立[からおりぬぎさげおんないでたち]
ワキ  旅の僧  着流僧出立
アイ  寺の門前に住む男  長上下出立[ながかみしもいでたち]

 
あらすじ
秋、旅の僧が大和国の長谷寺[はせでら]に参詣の途中、初瀬川を通りかかります。そこへ女が舟に乗って現れ、僧と言葉を交わします。僧を二本の杉のもとへ案内した女は、『源氏物語』の玉葛の昔物語を語ります…そして自分こそ玉葛であるとほのめかし消え失せました。僧が玉葛の弔いをすると、心を乱した様子の玉葛の霊が姿を現し、恋の妄執の苦しみを訴えますが、妄執を懺悔にひるがえして成仏をとげました。
 
物語の流れ

  1. 諸国を旅する僧(ワキ)が奈良の都にやって来ました。僧は奈良の南に位置する初瀬の長谷寺にお参りをしようと思い立ちます。石上[いそのかみ]の寺や三輪の山を通り過ぎ、初瀬川のほとりにたどり着きました。
  2. 時雨が降るごとに秋の深まる初瀬川。その川を女(前シテ)が小舟に乗りさかのぼってきます。女は棹を操りながら孤独な身の上を嘆き、淋しげな様子です。
  3. 女に気づいた僧が言葉をかけると、女は初瀬寺へ参るところですと答えます。ほのかに色づく初瀬山の紅葉、風に移ろう薄雲も夕日に染まり、雲間から差す光で時雨に濡れた紅葉がいっそう色を増しています。あたりには川音が響き、霧の絶え間から遠くの谷間の人家が見えます。そのような景色を眺めつつ、女と僧は長谷寺の本堂にお参りし、二本の杉にやって来ます。
  4. 女はここ二本の杉にまつわる『源氏物語』の玉鬘の昔物語を話し始めます。その物語は…幼い玉鬘は母親の夕顔を亡くし都を離れ九州に下ります。成長した玉鬘は気の進まない結婚話を嫌い、九州を逃れ初瀬寺にお参りします。そして二本の杉のもとで母の侍女であった右近と再会したのでした。
  5. 女は、僧と初瀬で出会ったのも浅からぬ縁ゆえなので、私を弔ってほしいと願います。さらに実は自分こそ玉鬘であるとほのめかし、姿を消してしまいました。(中入)
  6. 寺の門前に住む男(アイ)が現れ、僧に話しかけ、二本の杉ゆかりの玉鬘の物語を話します。僧が先ほどの出来事を打ち明けると、男は玉鬘の供養をすることを勧めます。
  7. 僧はともし火を灯して、玉鬘の供養をおこなっています。
  8. 僧の前に玉鬘の亡霊(後シテ)が姿を現します。亡霊は黒髪を乱し、恋の思いにとらわれ、ただならぬ様子です。
  9. 霊は生前、恋の思いに心を強くとらわれていたことを語り、懺悔をすると、ついに成仏をとげるのでした。

 
ここに注目
『源氏物語』の登場人物である玉鬘が主人公で、その名前から「髪」という言葉に焦点が当てられる。特に後半の主人公の登場場面では「髪」と、それに関連する言葉が頻出する。「髪」からイメージされる「恋による心の乱れ(恋の妄執)」が主題である。また前半の紅葉の「紅」と後半の髪の「黒」の組み合わせは、玉鬘の恋の妄執そのものをも象徴しているといえる。
死後もなお恋の妄執に苦しむ玉鬘像は、『源氏物語』の中で、右近と再会したのちに光源氏に引き取られた玉鬘に多くの貴公子たちが恋心を抱いたことから、作者が玉鬘のイメージをふくらませ作り上げたと考えられる。
 
(文・中司由起子)

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