銕仙会

銕仙会

曲目解説

玉井
たまのい
作者 観世信光
場所 海神の宮殿
季節 不定
分類 脇能物 異神物
登場人物
前シテ 海神の娘 豊玉姫(とよたまひめ) 面:増 唐織着流女出立(一般的な女性 の扮装)
後シテ 海神 面:大悪尉など 竜神出立(竜神の扮装)
前ツレ 海神の娘 玉依姫(たまよりひめ) 面:小面 唐織着流女出立
後ツレ 豊玉姫 面:小面 天女出立(女体の神の扮装)
後ツレ 玉依姫 面:小面 天女出立
ワキ 彦火々出見尊(ひこほほでみのみこと) 唐冠狩衣大口出立(男体の神の扮装)
ワキツレ 尊の従者 (2人) 洞烏帽子狩衣大口出立(臣下の扮装)
間狂言 蛤の精※ 精出立(動植物の精の扮装)

※アイを鱗(うろくず)の精とする演出もあります。

概要

神代の昔、彦火々出見尊(ワキ)が兄から借りた釣針を探し求めて海神の都に至り、井戸の陰で様子を窺っていると、海神の娘の豊玉姫(前シテ)と玉依姫(前ツレ)が水を汲みにやって来る。二人に見顕わされた尊は自らの正体を名乗り、こうしてやって来た事情を明かす。すっかり打ち解けた姫たちは父・海神のもとへと尊を案内し、海神は尊への協力を約束する。尊は豊玉姫と契りを交わし、海神の婿となるのであった。
やがて三年の歳月が経ち、日本へ帰ろうとする尊。二人の姫(後ツレ)は尊に玉を捧げ、海神(後シテ)は尊の探し求めていた釣針を持参して、別れゆく花婿への餞別とする。姫たちや海神は尊の門出を祝って舞を舞うと、尊を日本へ送り届けるのだった。

ストーリーと舞台の流れ

1 ワキ・ワキツレが登場します。

神代の昔。天界の神の子孫・彦火々出見尊(ワキ)は、安住の地であった日本国土を離れ、海中の世界へと向かっていた。兄から借りた釣針を魚に取られ、途方に暮れていた尊。彼は海辺に住む翁の教えに従い、大海原へと赴くのであった。

ようやく辿り着いた、海神の都。正面には立派な門がそびえ立ち、その傍らには輝くばかりの美しい井戸があった。尊はこの井の陰に隠れ、暫く様子を窺うことにした。

2 前シテ・前ツレが登場します。

そこへやって来た、二人の乙女(前シテ・前ツレ)。「限りなき齢を保つ、海神の都。こんこんと涌く泉こそ、不老長寿の霊薬なのです。清らかな長寿の水を汲み、濁りなき心の水を掬びましょう…」 透き通るような美しい桶を手にした、姉妹と思しき乙女たち。二人は水を汲むべく、井戸のほとりへと近づいてきた。

3 ワキは前シテ・前ツレと言葉を交わします。

様子を窺う尊。そうとは知らず、二人が井のもとへ立ち寄ると、澄んだ水鏡は尊の姿を映し出していた。見顕わされた尊は自らの正体を明かし、遥々この地までやって来た事情を明かす。二人はこれを聞いて驚き、尊の高貴な姿に心奪われるのだった。

「ここは海神の宮殿。私たちは海神の娘、豊玉姫・玉依姫という姉妹なのです」 名を明かす姉妹の姫。尊と姫たちは、こうしてすっかり打ち解けるのだった。

4 尊は海神の婿となり、三年の月日が経過したことが謡われます(〔クセ〕)。

姉妹に伴われ、宮殿へと通された尊。威風堂々たる宮殿の内、海神の御前へと進み出た尊は、これまで遥々やって来た事情を訴える。それを聞いた海神は、釣針を探し出すことを約束し、尊を日本国土の王とすべく協力しようと申し出た。こうして海神を味方につけた尊は、豊玉姫と契りを交わして海神の婿となり、海底での日々を過ごすのであった――。

5 前シテ・前ツレは、尊の帰郷への協力を約束し、いちど退場します。(中入)

三年の歳月が経ったある日。尊は、日本への帰郷を思い立つ。道中を案ずる尊に対し、二人の姫は道案内に父自らが立つことを約束し、陸地へと向かう乗り物の品々を紹介する。こうして宮殿の内では、尊の門出を祝う宴の準備がはじまった。

6 アイが登場し、〔三段之舞〕を舞います。

尊の送別の宴のため、宮殿に仕える貝の精たちも準備に余念がない。蛤の精(アイ)は尊の心を慰めるべく、舞を舞って興を添えるのであった。

7 後ツレ(二人)が登場します。

やがて再び姿を見せた、姉妹の姫(後ツレ)。二人が金銀の器に入れて捧げ持つのは、光輝く二つの珠玉。潮満珠(しおみつたま)・潮涸珠(しおひるたま)と呼ばれた、不思議な霊力をもつこの玉は、帰郷した尊が日本の王になれるようにと用意された、義父・海神の心入れの品であった。

8 後シテが登場し、後ツレは華やかに舞を舞います(〔天女舞〕)。

そこへ姿を現した、この宮殿の主・海神(後シテ)。尊の探し求める釣針を持参した海神は、この釣針を二つの玉に添え、別れゆく花婿への引き出物にと贈るのだった。

二人の姫は尊の門出を祝福し、名残りの舞を舞いはじめる。月光に照らされたその優美な姿は、あたかも虚空に漂う花、風に舞う雪のよう。

9 後シテは威厳ある姿を見せ(〔舞働〕)、ワキを地上界へと送ります。(終)

やがて海神は自らも座を立ち、ゆったりと舞の袖を翻す。年闌けた龍王の、静かながらも力強いその姿。それは、大海原の世界を統べるに相応しい、威厳に満ちた佇まいであった。

そうするうち、時刻は早くも移り、いよいよ出発のときがやって来た。海神は乗り物として五丈の鰐を尊に勧め、二人の娘に玉を持たせると、遥かの潮路を押し分けてゆく。こうして、海神たちに守られながら、尊は再び日本へと帰り着いたのであった――。

みどころ

(後日掲載いたします)

(文:中野顕正)

今後の上演予定

  • 2018年1月定期公演「玉井」シテ:谷本健吾・観世銕之丞
  • ※通常の演出では、豊玉姫は前場ではシテの役、後場ではツレの役となっており、別々の役者が演じることになっていますが、今回の演出では前場・後場ともに豊玉姫を同一の役者がつとめます。そのため、前シテ(豊玉姫)と後シテ(海神)は別々の役者がつとめることとなります。

    (最終更新:2017年11月)

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